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反省する使い魔! 第十四話「追跡計画中計画実行中」 音石明はこの世界でルイズの使い魔を続けている内に 何度も同じ疑問を自分の頭のなかで浮かべていたことがある。 別によ~~、このオレがわざわざルイズみてぇな やかましい小娘に仕える必要なんて本当はどこにもねぇんぜぇ~~? 仮にだ、ルイズに義理みてぇなモンがあったとしよう。 オレがそんなモンわざわざ守ると思うかぁ? オレは御伽噺や漫画に出てくるような 義理堅い勇者野郎でもなんでもねぇんだよぉ~~~~……………。 しかしだ!よく考えてみてくれよ。俺は刑務所で三年の月日を費やした。 三年だ!たったの三年!! あの杜王町で俺がやったことがたった三年で許されるだとぉ~~~ッ!? わざわざ殺人まで覚悟してやった俺のあの行いが たった三年で許されるような安っぽいモノだとでも思ってんのかッ!! はやく出所できたんだから得だとかそういう問題じゃねぇ! 俺は納得したいんだよ! 三年前俺は間違いなく罪を犯した。 そして刑務所を出たと思ったら、今度はワケのわからねぇ世界で 小娘のお守りときたもんだ。まったくお笑いだぜ………。 最初にルイズの使い魔になれという要求を承諾したのも はっきり言っちまえば召喚の時にクラスメイトから バカにされてたルイズに対してのくだらんねぇ同情からだった。 だがルイズを見ていくうちにわかったことがある。 ルイズは魔法が使えない魔法使いだ、 どんな魔法を使ってもお決まりに爆発する。 クラスメイトの連中はそんなルイズを見下していたがよぉ あの爆発は使い方によっちゃあ間違いなく兇器になる。 このままじゃルイズはいずれ、 自分の中で押さえ込んでいる劣等感をクラスメイトを 傷つける武器にしちまう………。 だからよぉ、そんなルイズだからこそ オレを召喚したんじゃねぇかって時々思うんだよ 道を踏み外して過ちを犯すということを知っていて 今なおそんな自分の罪滅ぼしに納得していない俺だからこそな……… そして今、ルイズはやべぇ状況にいる。 なんでも今度の相手は結構名の知れた盗賊らしいじゃねぇか、 そういう奴をやっつけてルイズを守ってやればよ~~~ 少しでも俺の中にあるこのモヤモヤが晴れるかもしれねぇ! だから今はこの目の前のデカブツをぶっ壊すことに集中するぜ!! 「しっかしでけぇーなー、 ギーシュの『ワルキューレ』は2メートルくらいあったが こいつぁ10メートルは超えてんじゃねぇのか?」 ゴーレムから30メートル程の距離をあけて 音石は土くれのフーケの操る巨大ゴーレムを見上げていた。 「まあ、それくらいのほうがやりごたえがあるってもんか?」 「オトイシッ!!」 自分の使い魔の登場にルイズはゴーレムの足元で 歓喜と驚きの声を上げた。 「おいルイズゥ、そこ危ねぇからはやくこっち来い!」 音石はルイズの身を案じ、 自分の元に来るように手招きのジェスチャーを送る。 ルイズもソレに応じ、音石の元に駆け寄ろうとしたが ソレを許すフーケではない! 「おっと、逃がしゃあしないよ!」 先程破壊された腕が回復され、すぐさま元通りになる。 そしてその腕は瞬く間にルイズ目掛けて襲い掛かってきた! しかしその行為を安々許す音石でもない! 「ふっふっふっ生憎とな、そう易々攻撃を当てさせないところが 俺と『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のいいトコなんだぜぇ?」 ゴーレムの上空を飛び回っていたスピットファイヤーが ルイズ目指して滑空を始める。 そのスピードはゴーレムの攻撃速度を圧倒的に上回っていた。 ルイズの近くまで接近すると、スピットファイヤーから レッド・ホット・チリ・ペッパーの腕だけを出現させ、 ルイズのマントを掴み取った。 「いいいいぃぃぃやああああぁぁぁぁっ!!?」 時速150キロという高スピードのなか、 ルイズは悲鳴をあげてマントからぶら下がった形で音石の元まで移動し ゴーレムの攻撃を回避した。 音石の近くまでやってくるとスピットファイヤーのスピードを緩め ルイズを自分の隣に落とすようにレッド・ホット・チリ・ペッパーは手を離した。 【ドスンッ】「キャアッ!」 「ウ~~シッ!ルイズを回収すりゃこっちのもんだぜ あのゴーレムを操ってるフーケってやつはあそこの壁の向こうにある 宝物庫を狙ってんだろ?だったらゴーレムをあそこから動かすって真似は しねぇはずだ、奴自身無駄に時間を喰ってる暇なんてないはずだからな 空中にはキュルケとタバサ、こっちだってスピットファイヤーがあるんだ 本体の俺が攻撃されないように距離も十分にとってある、 今のあの野郎は将棋で言う『詰み』に入ってるっつーわけだぁっ!」 「こ……こ……この馬鹿ギタリストォーーーーッ!!!」 ルイズが音石目掛けて飛び蹴りを放った!! 【ガスッ】「オガァッ!!?」 蹴りはものの見事に音石の横腹に命中した。 「いっててぇぇぇっ!!?いきなりなにすんだコラァッ!!」 「ソレはこっちの台詞よぉ!ご主人様に対してなんて事すんのよっ!! 助けてくれたことには感謝してるけど、もっとマシな方法なかったの!? あの持ち方!!もう少しで首が絞まるトコだったじゃない!!」 「おいバカ!杖をこっち向けんなって!あーするしかなかったんだよ! 仮にマントじゃなく腕や脇から持ち上げたりしたらその長い髪が あのスピットファイヤーのプロペラに巻き込まれかねねぇだろうがっ!」 「ハッ!そうよオトイシッ、説明しなさい! あれは一体何なの!?もしかして竜の子供!?」 オトイシとの会話中にルイズは自分の中にある一番の疑問に気付き、 その疑問にむかって怒鳴るように指差した。 「竜の子供だぁ?そんなんじゃねぇーよぉー、 『スピットファイヤー』 イギリスのスーパーマリン製単発レシプロ単座戦闘機 大戦時にはイギリス空軍をはじめとする連合軍が使用していた戦闘機で ロールス・ロイス製の強力なエンジンを搭載、空気抵抗も少なく その性能はその手のレースで三度も優勝してるほどの優秀さを誇る。 主任設計技師であるR.J.ミッチェルとジョセフ・スミスを 始めとする後継者たちによって設計され、パイロットたちの支持も厚く 1950年代まで23,000機あまりが生産され さまざまな戦場で活躍した…………そのラジコンバージョンだ」 「……………ごめん、あんたが何を言ってるのか理解できないわ」 「………………………………まあいい、話は後だ 今重要なのはあの盗賊フーケなんだからな~~~」 巨大なゴーレムを眺めながら音石は勝利の確信の笑みを浮かべるが ルイズは対照的にどこか腑に落ちない顔をしていた。 しかし音石の予想通り、フーケにとってこの状況は 非常に不味いものだった。 「まずい、非常にやばいわね アレが何かは検討も付かないけど、あの使い魔は厄介だわ しかも制空権を完璧に向こうに取られてる……… あの使い魔が操ってる思わしき鉄の子竜、そしてもう一人、 さっきから距離をとってこっちの様子を伺ってるあの風竜……」 フーケは首を上に傾け、タバサとキュルケを乗せたシルフィードを睨んだ。 「多少の邪魔は想定内だったけど、竜が二体なんて反則だよ! 『フライ』を使って飛んで逃げることもできやしない!」 苛立ちを隠せないフーケだったが、自分の中で無理やり心を落ち着かせ 状況整理と作戦を冷静に練り始める。 (これ以上グズグズしていられない! いずれ学院長や教師連中がやってくる、 その前にこの状況を打破しなければ………ッ! しかしどうする!?連中はこっちの時間が少ない焦りを利用して 距離をとってやがるし、ゴーレムを操る魔力もそろそろ限界に来てる 考えろ!なにか策があるはず………………ッ!?) 思考を張り巡らしているうちにフーケはあることに気付いた。 自分と対峙している竜たちが一向に自分に攻撃してくる様子を 見せていないのだ。まさか!と思い、フーケは咄嗟に音石を見た……。 かなり距離が離れているはずなのに、フーケにはそれがはっきりと見えた。 笑っていた。音石のその表情がすべてを悟っていた! (降参を誘っているつもりかいッ!!? こっちの不利な状況を理解して……ッ!舐めやがってッ!! この『土くれ』のフーケをここまでコケにしやがるなんてっ………!!) ギュゥィィイイイイイイアァァァァンッ! 音石は愛用のギターを絶好調に響かせた。 「ハッハァーッ!よかったなぁルイズ! コレでお前は明日から英雄だぜ、より胸はって学生生活も送れるってわけだぁっ! 実家で病弱だっていうお前の姉貴も喜ぶぜぇっ!ギャハハハハッ!! よっしゃあせっかくだぁ、なにか弾いてやるからリクエストしてみろよ! おっとしまった、この世界の住人のお前じゃリクエストなんて無理だな 仕方ねぇな、だったら俺が選曲して聞かせてやるぜっ! そうだな……………よしっ! 『エアロスミス』の『WALK THIS WAY』あたりでも…………」 (たしかにオトイシの言う通り、この状況は圧倒的にこっちが有利…… でもなんなの!?さっきからわたしのなかで渦巻いている このモヤモヤ感は!?いやな予感がしてならない………ってこと?) 未だルイズが不安を隠せないことも気付かずに、 いつの間にか音石はルイズの隣で……… ズッタンッズッズッタン!と勝利の確信に酔い踊っていた。 「なっ!?この『土くれ』のフーケを前にして踊ってやがるッ!? なんてムカつく奴なんだい!思えばあいつの登場で なにもかもぶち壊しだよっ! 当初の目的だった宝物庫の宝も結局取れまず仕舞い………え!?」 一瞬宝物庫の壁に目を向けたとき、フーケは目を疑った。 なんと壁に『ヒビ』が入っていたのだ! ばかなっ!さっきまでいくらゴーレムで攻撃しても駄目だった 壁にどうして今になってヒビが!?とフーケは疑問に思ったが その原因であるべき正体を思い出した。 「まさか………、あのゼロのルイズがさっき放った爆発でッ!?」 ますます理解不能だった、なぜあのゼロの失敗の爆発でこの壁が? しかし、これは二度とないチャンスであるという事実が そんな疑問を掻き消した。 そして閃いてしまった、この状況を打破する策を………! 「アンタにはもう少し働いてもらうよ!!」 フーケは杖を振り、ゴーレムを再び動かし始めた。 ソレを見た音石が踊りと演奏を止め、行動に移った。 「ゴーレムを動かしやがったか、 その行動………、殺されちまっても文句はねぇモンだと判断するぜっ!」 音石はシルフィードを操っているタバサを見てアイコンタクトを送る。 それを合図にスピットファイヤーとシルフィードは ゴーレムに向かって飛来していった。 ただ一人、自分がなにもしていないことに気付いた ルイズは精一杯の手助けをと思い、音石アドバイスを送った。 「オトイシ!ゴーレムの肩に乗っているフーケ本体を狙うのよ! そうすればあのゴーレムは動かないわ!!」 「それぐらいは言われなくたってわかってるぜぇルイズ! そこらへんの原理はスタンド使いと一緒だからなぁ~!!」 (お願い!わたしのなかのこの予感が、どうかわたしの勘違いであって……!) ルイズは自分の胸に手を当てて、祈った。 生命の予感や察知とはなんとも不思議なものだ。 自分の身にナニかが迫ると無意識のうちに自分の中でそれを感じ取る、 犬や猫などが、飼い主が帰ってくること時にソワソワするのと同じだ。 ルイズは正確にその嫌な予感を的中させてしまった。 なぜなら、その嫌な予感の元凶を作ったのがルイズ本人であるのだから………。 フーケのゴーレムがスピットファイヤーたちを無視して、 宝物庫の壁に拳を飛ばし、なんと壁を粉砕してしまったのだ! 「ナニィッ!?」「そんなっ!?」 音石とキュルケの驚きの声が重なった。 壁がえぐれた部分にゴーレムの肩に乗っていたフーケが飛び移った、 「まずいわ!宝を盗まれてしまうわ!」 キュルケがバッと音石にアイコンタクトを送った、 えぐれた壁の隙間に入っていったフーケを攻撃できるのは 音石が操るスピットファイヤーしかないと判断したからこその合図だ。 音石もそのキュルケの合図には気付いていたが、 一方でゴーレムのある変化にも気付いた。そして驚愕した! 「タバサァッ!!ゴーレムに近づくんじゃねぇっ!! こっちに向かって倒れて来てるぞぉ!!」 それを合図に、シルフィードとスピットファイヤーはすぐさま真上に上昇したが、 30メートル近くあるゴーレムの転倒の衝撃は並なものではない。 凄まじい砂煙が広範囲に広がり始めていった。 地上にいる音石とルイズがそれに巻き込まれはじめたのも当然のことだった。 「伏せろルイズッ!絶対に目をあけるんじゃねぇぞ!!」 「きゃあぁぁぁぁっ!!」 咄嗟の行動だった、目の前まで迫ってきている砂塵に襲われる前に 音石はルイズのマントを引っぺがし、彼女を片手で抱き寄せると 体の体勢を低くし、引っぺがしたマントを二人の体を覆うように被り 迫り来る砂塵を受け流した。 【ビュオオオオォォォォォォ……………】 「オトイシくん、大丈夫かい!?」 マントを覆い被って数分、遠くから聞こえるコルベールの声が聞こえ 音石は覆い被っていたマントから顔を覗くと、 コルベールとオールド・オスマンがこっちに向かってきていた。 そのほかにも大勢の教師や生徒、衛兵がぞろぞろとやってきていた。 「………ふう、おらよルイズ。マント返すぜ 砂埃だらけだが、洗えば取れるよ」 ルイズは「ありがとオトイシ」と礼を言ってマントを受け取ると、 すぐさまオールド・オスマンたちのもとへと駆け寄った。 「ほっほ、ミス・ヴァリエール。 随分と無茶したようじゃが、怪我はないかの?」 「お気遣い感謝いたしますオールド・オスマン ですが大丈夫です、私の使い魔が守ってくれましたから……」 その時一瞬、ルイズは軽く頬を染め誇らしそうな顔をすると すぐにまたスイッチを繰り返した。 「それよりも学院長!たった今緊急事態がッ!」 「ふむ、コルベール君に事情は聞いておる 『土くれ』のフーケ、まさかこのトリスティン魔法学院を狙うとはの…… その上、固定化をかけておいた壁をも打ち破るとはたいした奴じゃわい」 それに対してはルイズも共感した。 固定化の魔法とは、その名の通り。 対象の物質などを時を止めたかのように固定し、 固定された物質は腐ることもなく、壊れることもない。 並みのメイジがかけた固定化ならばそれなりの実力者のメイジでも 破壊することはむずかしくはないが あそこの宝物庫の壁は学院長直々に固定化の魔法をかけているほどのものだ それを破るなんて、フーケとはそれほどの実力者だったとは………と ルイズは少し身震いした。しかしルイズは永遠に知ることはない、 その固定化を打ち破った本当の原因は紛れもなく自分だということを………。 「学院長!」 宝物庫を調べていた教師の一人がフライの魔法で上から降りてきた。 「ほとんどの宝は無事だったのですが、ただひとつ 『破壊の杖』だけがどこにもありません」 「ふぅーむ、フーケめ よりにもよって『破壊の杖』を………、ほかに手掛かりは?」 「はい、この置手紙がひとつ」 「なになに~、『破壊の杖、確かに頂戴しました 土くれのフーケ』か フォフォフォッ、なんとも律儀なもんじゃわい」 口では笑ってはいるオールド・オスマンだが その目は真剣そのものだ、今この老人のなかでは これからどうするかの方針が練りこまれているのだろう。 「ねえオトイシ、あんたのあの竜の子でフーケを探せないの?」 「だから竜じゃなくて………、はぁ……上見てみろ」 そう言われてルイズが顔を上に上げると、スピットファイヤーと シルフィードが学院の上空をグルグルと飛び回っていた。 何人かの教師がスピットファイヤーの姿に「オオッ!?」と驚きの声をあげた。 「さっきからタバサのシルフィードと一緒に探しちゃいるんだが、 なにしろあの砂煙だし、フーケは名の知れた盗賊だからな 見つからないように身を潜めることに関しちゃあ、 向こうのほうが圧倒的上手だ。どうしようもねぇよ……」 スピットファイヤーを地上まで下ろすと、音石は片手でそれを持ち上げると その姿にコルベールは感動と歓喜の声をあげ始めた。 「おお!なんとも素晴らしい!! 見ましたか学院長!?あれほどの文化が彼の故郷には 当たり前のように発達しているのですぞ!」 「コルベール君、君が喜ぶのも理解できるは 今もっとも重要なのは『破壊の杖』を持ち去ったフーケのほうじゃぞ?」 「あっ……こ、これは失礼しました」 どこか残念そうだが興奮を落ち着かせたコルベールだったが、 タイミングを見計らったように、タバサとキュルケを乗せたシルフィードが 降下しはじめ、地上へと舞い降り、そんな二人に音石は声をかけた。 「そっちはどうだったよ?」 「やっぱりだめだったわ、フーケがどっちの方角逃げたかもわからないし 第一こんなに暗いんじゃねぇ………」 「もっともだな、………なあタバサ、お前なら奴をどう探す?」 「………夜明けを待つ、それに情報も…………」 ――夜が明け始め、現在学院長室―― タバサの意見がもっともだと賛成した一同が学院長室に集まっていた。 今ここにいるのは、音石たちとオールド・オスマン、コルベール そして何人かの教師陣たちだった。 「さて………こうして夜が明け始めたのはよいが 周囲を捜索させた衛兵たちの報告はどうなんじゃ、コルベール君?」 「残念ながら……、現在のところそう言った報告はまだ………」 「はっ、衛兵と言えど所詮平民、 平民のような役立たずなどあてにしても仕方ありませんぞ!」 「じゃあテメェはどうにかできんのかよ?」 「なにぃっ!!?」 一人の教師が鼻で笑った言葉に、音石がポツリと嫌味を呟き その教師が音石を睨むが、しかし音石は眼中にないかのように その教師と目を合わせなかった。 「コレコレよさんか二人とも、今はフーケが問題じゃろう しかし、オヌシの今の発言はいささか言葉が過ぎるぞ?」 「………ッ、申し訳…ありません…」 その教師が詫びると、オールド・オスマンはやれやれと息を吐いた。 こんな非常時に相変わらずな教師たちに呆れながら 見渡しているとあることに気付いた。 「おや?ミス・ロングビルの姿が見えんの」 【ガチャッ】「私ならここにいます学院長、ハァッ…、遅れて申し訳ありません」 噂をすればなんとやらだ、 突然扉が開かれ、ミス・ロングビルが息を切らしながら入ってきた。 「おお、心配したぞミス・ロングビル ん?えらく息がきれているようじゃが……なにかあったのかの?」 「はぁ…はぁ…、土くれのフーケの件で…調査していました」 「ふむ、仕事がはやくて助かるのミス・ロングビル」 「お褒めにあずかり光栄です、それで調査の結果なのですが 土くれのフーケの居場所が掴めました」 その言葉に学院長室が一気にどよめきはじめるが オールド・オスマンは落ち着いた物腰と口調で問う。 「ほう、フーケめの居場所をのぉ~~…… 一体それはどうやって調べたのじゃ?」 「はい、実はフーケが破壊の杖を持ち出し 逃亡したところを私が目撃したのです」 周囲のどよめきが一層に増す、ルイズたちもその言葉には驚いた。 しかし音石はなにか引っかかるものを感じていたが、 今は黙ってロングビルの話を聞いておくことにした。 「まさかだと思うがミス・ロングビル……… 君はそのまま…………フーケの後を尾行したのかね?」 「身勝手な行動をお許しくださいオールド・オスマン 学院の衛兵である、『サリー』と『エンリケス』を連れて……… そしてフーケがここから馬で2時間~3時間ほどの とある森の廃屋を拠点にしていたことがわかりました」 「ふ~~~む、ミス・ロングビル…… 叱ってやるのはこの騒ぎが終わってからとしよう………。 しかし『サリー』と『エンリケス』?聞かん名じゃのぉ」 コルベールが手元にあったファイルを開き始める。 どうやらそれは学院に所属する衛兵や使用人などのプロフィールのようだ。 ページをめくっていくと発見したのか、詳細をオールド・オスマンに伝える。 「つい最近この学院に所属したばかりの二人組の衛兵ですね」 「はい、現在フーケが潜んでいる廃屋を見張らしています」 「なんじゃとっ!?ミス・ロングビル! 君はそんな危険なところに衛兵を置いてきたのかッ!? もしもその二人になにかあったらどうするつもりじゃッ!!」 オールド・オスマンが珍しく声を荒げて張り上げ、椅子から立ち上がった。 心優しいこの老人のことだ、危険で凶暴なメイジの近くに 平民でしかない衛兵を置いとくなどどれだけ酷なことか、 それに対して怒っているのだろう。 今まで見たことなかった学院長の怒りの光景に教師たちが動揺し始めた。 しかしコルベールがロングビルをサポートするかのように言葉を挟み その場を落ち着かせようとした。 「お気持ちは理解できますが学院長!彼らのことを思っているのならっ! 今は一刻も早く王宮にこのことを報告して助けを呼ぶべきかとッ!!」 コルベールが間に入ったことによって、 心を落ち着かせたオールド・オスマンは椅子に座りなおした 「そんな悠長な時間もないじゃろう、コルベール君………、 王宮に連絡してからでは時間がかかりすぎる、 よってじゃ!この一件は我々魔法学院内で解決するとしよう そうとなれば早速捜査隊を編成する! 我こそはと思うものは杖をかかげ志を示すがよいッ!!」 しかし残念なことに、この学院の教師たちは 口だけが達者なトーシロの集まりのようなものだ。 教師それぞれが顔を見合すだけで、誰も杖を上げようとはしなかった。 そんな教師たちにオールド・オスマンはますます呆れた溜め息を上げると たった一人、そう……ルイズだけがそのなかで杖をかかげた! 「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて」 シュヴルーズが止めようとしたが、ルイズは牙を剥くように怒鳴り返した。 「誰も杖をかかげようとはしません! ならばわたしがフーケを追います! 元々フーケをみすみす取り逃がした責任はわたしにあります あの場に私はいたのですから!」 「それだったら私たちにもその責任はあるわよヴァリエール? あんたと同じように、私たちだってあそこにいたのだから………」 ルイズに続くように、キュルケとタバサが杖をかかげる。 その行為に次に驚いたのはコルベールだった。 「ミス・テェルプストー!気持ちはわかるがあまりにも危険だッ!! 君たちもあのゴーレムを見ただろう!?」 「お気遣い感謝しますがミスと・コルベール ですがヴァリエールには負けたくありませんので……… ねぇ、タバサ?」 「………別に家名なんてどうでもいい……でも心配」 「ありがとうタバサ、やっぱりあなたは最高の親友だわ!」 キュルケとタバサが友情を深め合う中、教師達は猛反対を開始した。 だがオールド・オスマンが「では君が行くかね?」と問うと、 皆体調不良などを訴えて断る。 オールド・オスマンは勇気ある志願者三人を見て微笑んだ。 「彼女達は、我々より敵を知っている。実際に見ておるのじゃからな その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておる 実力は保証できるじゃろう」 教師達は驚いたようにタバサを見つめ、キュルケも驚いた。 「そんなの初耳よ!?それ本当なのタバサ? なんで黙っていたのよ?教えてくれればよかったのに……」 「騒がしくなるから……」 「ウフッ、もうっ、タバサらしいんだから!」 キュルケが納得とばかりに微笑んだ。 音石が後から聞いた話だが、 『シュヴァリエ』というのは王室から与えられる爵位であり 階級で言えば最下級のものだが、 ルイズ達のような若さで与えられるような生易しいものではないらしい、 しかもシュヴァリエは他の爵位と違い純粋な業績に対して与えられる爵位。 いわば戦果と実力の称号である。 するとオールド・オスマンが話を続ける。 「ミス・ツェルプストーは、 ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、 彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いておるぞ」 キュルケは得意げに髪をかき上げた。 さて次はルイズの番と、オールド・オスマンは視線を向けて、 褒める場所を探し、コホンッと咳払い。 「その……ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出した ヴァリエール公爵家の息女で、うむ、それにじゃ…… 将来有望なメイジと聞いておる。 しかもその使い魔は、平民でありながらも あのグラモン元帥の息子である ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという戦績がある」 明らかにルイズよりを音石を褒めている発言に、 ルイズは少しムッとしたが事実だから仕方ない。 音石は思わず少し苦笑してしまった。 「………オトイシくん」 「あん?」 ルイズたちが並んで前に出ている後ろのほうで、 壁にもたれ掛っている音石にオスマンは突然声を掛けた。 「これはこの年寄りからの………いや、学院長であるワシからの頼みじゃ 君も彼女たちと共にフーケを追ってくれんか? 当然、君が望むのであればいくらでも礼は弾む」 「が、学院長ッ!?」 このオールド・オスマンの言葉に教師たちが驚きの声をあげた。 由緒正しき魔法学院の長が、一人の平民……しかも使い魔相手に そのような頼みを言うなどこの世界の常識では考えられないことだった。 だが音石からしてみれば、そのようなことを頼まれてもどうしようもないことだ。 なぜなら、頼まれるまでもないのだ…………。 「オトイシ、あんたは私の使い魔よ」 ルイズという自分の主人がこう言われてしまった以上………。 「まあ、そういうことだジイさん 今のオレはルイズの使い魔、そしてそのルイズがフーケを追う以上 オレが行かねぇわけにもいかねぇだろ? それに『勝算』だってこっちにはある、任せておけよ」 そう言いながら音石は、先程から脇に抱えている スピットファイヤーをつよく握り締めた。 (さっきは油断したが次はそうはいかねぇ…… ルイズたちはああ言ったが、フーケを逃がした一番の理由は オレの過信からきた油断だ……、反省しなくちゃなぁ~~~ 次もヘマ踏まねぇようによ~~~~) 学院の門付近にて、音石とルイズ、キュルケとタバサ、 そしてオスマン、コルベール、ロングビルがそこに集まっていた。 「ミス・ロングビルはフーケの居場所を知っておる故 君らの道案内役として同行させよう、 なによりミス・ロングビル、君には衛兵の二人の件もある ……………わかっておるな?彼女たちを手伝ってやってくれ」 「はい、オールド・オスマン……… もとよりそのつもりです……」 ロングビルの言葉にオスマンは渋るような顔で頷く。 「ふむ、では馬車を用意せんとな………」 「学院長、その馬車なのですが…… 屋根付きの馬車では見通しも限られますし、 なによりいざ何かあった時に動きにくいかと………」 「ふ~む、コルベールくんの意見がもっともじゃな……」 「でしたら屋根のない荷馬車を用意しましょう」 「うむ、任せたぞミス・ロングビル」 そう言って、ロングビルは厩舎小屋へと駆け出していった。 そんなロングビルを見送っていた音石だったが、 そんな彼の上着の裾を突然誰かが引っ張ってきた。 見てみると、引っ張っていたのはタバサだった。 「………質問がある」 「こいつ(スピットファイヤー)のことなら黙秘するが?」 「………………そう……」 表情こそ変えなかったタバサだったが、どこか残念そうな雰囲気で 裾から手を離し、本を読む作業に戻った。 その様子を見ていたキュルケは溜め息をはいた。 (やっぱり教えてくれないか……… オトイシって、ほんと何者なのかしら……… でも彼と一緒にフーケを追えば、少しでも真実に近づくような気がするわね) 「コルベールさん、今更なんだがあんたに頼みが………」 「言わなくてもわかっているよ、それは(スピットファイヤー)君に譲るよ」 コルベールはスピットファイヤーに目を向けそう言ったが さすがにこの発言には音石も驚いた。 あくまで「借りたい」と言うつもりだったのだが まさか譲るとまで言ってくれるとは予想してなかったのだ。 「いいのか!?あんたが大金払って手に入れたモンなんだろ?」 「確かに、しかしオトイシくん。私はとても満足している 君がそれを動かすのを見たとき感動で涙がでそうにもなった…… なにより誇りにすら思っているのだよ私は……… 少しでも君やミス・ヴァリエールの助けになるなら 私は君に手を貸すのを惜しまないよ………」 「…………感謝します、コルベールさん」 音石は目の前の聖人のような男に軽く頭を下げるのだった………。 すると横から見ていたルイズがあるモノに気づき声を掛けてきた 「そういえばオトイシ、あんたそれもっていくつもり?」 「なんでぇ娘っ子、おれ様も一緒にいっちゃあ問題でもあんのかよ?」 ルイズが指差したのは、音石が部屋からもってきた 意思を持つ剣、デルフリンガーの事だった。 「だって別にねぇ~……、オトイシにはレッド・ホット・チリ・ペッパーが あるんだから、わざわざあんたみたいな薄汚い剣持っていかなくても……」 「ひっでぇなっ!あんまりだぜ、そんな言い草ッ!!?」 「事実を言ってるだけでしょうっ!」 自分を挟んでのやかましいいい争いに、 音石はやれやれと呟き二人の間に助け舟を出した。 「まぁ、ルイズが言ってることがもっともなんだがな」 「おいおい相棒、そりゃあねぇよ~~ッ!?」 「だがまあルイズ、ないよりはマシだろ? それにこいつの助けが必要になる状況もあるかもしれねぇしな、 例えば俺がスピット・ファイヤーでフーケのゴーレムを攻撃してる時に フーケ本体がオレ本体を狙ってくるかもしれねぇ………。 手元に武器がありゃ幾分かマシだぜ?ナイフも何本か持ってきたしな」 そう言って音石は、上着の内ポケットに仕舞っているナイフを ルイズにチラつかせた。 内側のナイフをチラつかせている音石の姿が あまりにも様になっていたのにルイズは苦笑いを浮かべるのであった。 「まあ、薄汚いボロ剣ってのは事実だから仕方ねぇがな」 「なに勝手に『ボロ』付け足してんだよっ!? 使い魔、主人そろってひでぇぜお前らッ!!」 デルフの虚しい叫びも、音石とルイズが目を黒い影で塗りつぶし 無視されるのであった。 ミス・ロングビルはまず、荷台を引くための馬を用意するために 厩舎小屋で適度な馬を選んでいた。 本来、大盗賊土くれのフーケを追うような危険な調査では 誰もが不安を隠せない表情を浮かべるのが普通だろう。 しかしこの時彼女の顔は、邪悪な笑みで口元を歪めていた。 「ふっふっふっ、まずは第一段落終了だね……… できれば教師に出てきてほしかったけど、まぁ仕方ないわね この学校の教師たちったら口だけで腑抜けばかりだもの……」 「どうやら計画は順調に進んでるようじゃねぇかフーケ」 「!?」 すると突然、厩舎小屋の奥から声が聞こえてきた。 暗闇で顔こそは見えなかったものの、 ミス・ロングビルもとい土くれのフーケはその声に聞き覚えがあった。 「ッ!?あんた、なんでこんなところにいるんだいっ!? 私が獲物を連れてくるまで持ち場で待機してろって………」 「ヒヒヒヒッ、そう硬いこと言わないでほしぃ~ね~ あんたを捕まえようなんて考えている馬鹿な命知らずがどんなヤツらか ちょいと気になったからよ~~、見に来ただけじゃねぇか~ あんたまさか『土くれ』って ふたつ名のくせして 人のおちゃめも通じねえコチコチのクソ石頭の持ち主って こたあないでしょうね~~~~~?」 暗闇のなかにいる相手の言葉にフーケは苛立ちを覚えるが こいつの人を頭から馬鹿にしたようなしゃべり方は今に始まったことじゃないと 自分に言い聞かせ、怒りを堪えた。 「どうせそっちは馬車なんだからナメクジみてぇにノロノロ来るんだろう? あんたの考えた計画をおれがわざわざめちゃくちゃにするとでも思ったかい? そこらへんはちゃ~~~~~んと考えてるぜぇ~~~~~?」 「………ふんっ、そりゃよかったね。 だったらとっとと持ち場に戻って………」 「いんや~~、おれも最初はそうしようと思ったんだけどなぁ~~…… これだけはあんたに伝えといといたほうがいいかなぁ~~っと思って、 わざわざこんな馬糞くせぇところであんたを待ってやったってわけだぜ?」 「伝えたいこと?」 「ああ、あんたが言ってた妙な使い魔……… ありゃ~~~十中八九『スタンド使い』だぜ 以前あんたは伝説の使い魔ガンダーなんとかの能力とかなんとかって バカづらさげて言ってたがよ~~~………」 その言葉にフーケは身目を見開かせ、驚きを隠せない顔をしていた。 「そうそう、丁度そんな感じのバカづらだぁ~、ヒヒヒヒヒ あんた顔面の表情操作が意外とうまいねぇ~」 「つまりあの使い魔はあんたの世界から召喚されたっていうのかいっ!?」 「ケッ、そこはあえてスルーですか…… まぁ、そういうことになるんだろうなぁ~~~~ あいつの格好、ぶら下げてるギター。間違いなくおれの世界の文化だ しかもギタリストとは………なかなかイカシてると思わねぇかい?」 フーケは爪を歯で噛みながら、なにかを考えふけっていた。 「あんた………あの使い魔を倒せるのかい? あの使い魔、はっきり言ってかなり強力だよ…………」 「モノは考えてから言えやこのボゲ、このおれが負けるとでも思ってんのかよ? もしそうだとしたら、アンタ今からこのガキのションベンくせぇ 学院の医務室に行って、ケツの穴に温度計ブッ刺されたほうが いいって助言してやるぜ?」 「ふんっ、相変わらず減らず口が絶えないやつだよ まあ、それを聞いて安心したよ。 今回の作戦はあんたの働きに掛かってるんだからね」 そういってフーケは相手が潜んでいる暗闇から視線を外し、 馬を二頭選び、厩舎小屋から引っ張り出した。 そして自分が気になっていたことを思い出し、 再度小屋の奥の暗闇に視線を戻した。 「そう言えば、あんたに言われたから攫ってきた衛兵の二人 一体なにに使うんだい?」 しかし、その時には暗闇には誰もおらず、 ただ小屋のなかにいる馬の鳴き声と窓から流れる風の音が 静寂に小さく唸るだけだった………………。
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WW-ブリザード・ベル(OCG) チューナー・効果モンスター 星5/風属性/魔法使い族/攻1800/守1800 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。 (1):自分フィールドのモンスターが、存在しない場合または「WW」モンスターのみの場合、 このカードはリリースなしで召喚できる。 (2):自分フィールドに「WW-ブリザード・ベル」以外の「WW」モンスターが存在する場合、 相手メインフェイズに、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。 相手に500ダメージを与える。 チューナー 上級モンスター 直接ダメージ 風属性 魔法使い族 WW WW補助
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【ゼロの使い魔~三美姫の輪舞~】【ラノベ】【ファンタジー】【萌え】【アニメ】【2008】【8】 公式 wiki なんとか動画 才人を巡る恋のライバル関係に決着をつけるため、シエスタはルイズに勝負を提案する!! それは翌日催される「スレイプニィルの舞踏会」で、才人がルイズを見つけることが出来るかどうかというもの。ただし、この舞踏会は「真実の鏡」というマジックアイテムで、自分がもっとも憧れる人物の姿に変身して行うという趣向のイベントである。絶対に負けられないルイズは、才人に自分を見つけられたら「この間の夜の続きをしてあげる」という大胆な約束をする。そして舞踏会当日、会場で才人は首尾良くルイズの姿を見つけるのだが・・・。 じじいの美的センスに嫉妬。 ファットも女の子に変身してたけど、もし変身出来るなら女の子になりたいです。 いや、ほんと、本気で、普通に男でも結構いると思うんだ。 ね?(確認 流石、ロイヤルビッチだ。期待を裏切らないぜ。 自分の理想の女の子、その彼氏に手をつけるってのは……。 理想を汚すという背徳心で興奮するタイプですね? ゲェッ!茶番劇だッ! もう虚無とかどうでもいいからサイドストーリーに戻して欲しいわ。 ハゲも生きてたのは嬉しいけど、来週の予告で全く触れてなくて泣いた。 視聴者とスタッフの意識に違いがありすぎる。 名前 コメント
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アンリエッタ王女の命を受けアルビオンに向け急行軍を続けるルイズ達一行 ルイズ、ディアボロに加え、王女から同行を命じられたというワルド子爵、ついて来たキュルケ、タバサの5人は 港町ラ・ロシェールに到着するとアルビオン行きの船を待つ為、「女神の杵」亭に宿を取った (志願した筈のギーシュだが出発の朝に学生寮の外で足を折った状態で発見された為、残される事となった 秘薬を用いて治療した後、一行を追うという選択肢もあったが動いているディアボロを見て泡を吹いて卒倒した為、 それも断念する事となった) ディアボロは部屋のベランダに立ち、重なり合った二つの月を眺めていた アルビオン 空に浮く島を領土とし、魔法使いの始祖ブリミルの血統を継ぐ王家が統治する国 王に忠誠を誓った王党派と王に反旗を翻した貴族派(レコン・キスタと称しているらしい)が内戦を繰り広げている国 これから自分達が向かうのは劣勢に追い込まれている王党派の勢力圏だ 戦闘に巻き込まれる公算はかなり大きい そんな所にろくに魔法も使えぬあの小娘を守りつつ赴かねばならない 小娘の婚約者を称するあの髭男はそれなりの実力を持ち合わせている様だが信頼は出来ない 臭うのだあの男は、自分の為には何を犠牲にするのも厭わない、利己的な臭いが (まだ小娘を失う訳には行かん、今暫く時間は必要なのだ 文字、地理、歴史そして魔法、この世界について知るべき事は山の様に有る 特に魔法だ、まったくもって未知の技術体系、もしかしたら忌まわしいあの小僧のスタンドを解除する方法もあるかもしれん) 今は世界を知り足元を固めるべきなのだ、そう思えばこそ小娘の理不尽にも耐えてきた 絶頂に返り咲く為には忍耐こそが重要なのだ… 不意に月が翳った ディアボロが空を見上げると工事現場で見かける様な車両らしき物が月を隠していた 上には人影らしきものも見える 「キング・クリ…」 (な、何だ?体の動きがに…にぶいぞ) 勢いをつけて叩きつけられたそれはディアボロの居たベランダを巻き込みつつ宿を半壊させた ■今回のボスの死因 工事現場で見かける様な車両らしき物に押し潰されて圧死
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シエスタと一緒に城下町へと出かけた日の夜、夕食が済むと、シンジはロングビルと名乗るオスマンの秘書に声をかけられ、学院長室まで案内されることになった。 その理由が気になったルイズはロングビルに同行を求めたのだが、丁重に断られた。 ルイズはシンジの袖をひっぱると耳元で囁いた。 「あんた、何かやったの…?」 しかし、シンジには心当たりがない。 「いえ、特には何も…」 だから、そうとしか言えなかった。 ロングビルの後を追いながら、色々と考えてはみたものの、やはり何も思い当たらない。 学院長室前に着くと、その扉をロングビルがノックした。 「オールド・オスマン。ミス・ヴァリエールの使い魔を連れて参りました」 「入りたまえ」 扉の向こうから、老人のものと思われる声が聞こえた。 ロングビルは扉を開くと、シンジに入室を促した。 「どうぞ、お入り下さい」 扉をくぐると、一匹の鼠と戯れる老人の姿があった。 「ミス・ロングビル。君は下がりたまえ」 「かしこまりました」 扉が静かに閉められる。 オスマンは鼠の喉元を指先で撫でながら言った。 「急に呼び出してすまんね、碇くん。さ、その椅子に座りなさい」 どうやら、このオスマンという老人、ルイズよりは、よっぽど人格者のようだ。【椅子】という単語が口から飛び出ただけでシンジはそう決め付けていた。 指示通り椅子に腰掛けると、シンジは口を開いた。 「あの、ぼく何かやりましたか?」 「何かやったのかね?」 「いえ、ただルイズさんが心配してたので…」 オスマンが微笑みを浮かべた。この老人は、笑うとシワだらけの顔にさらにシワが増す。 その様子が可笑しくて、シンジも微笑んだ。 「今日、君を呼出しのはいくつか君に聞きたいことがあったからじゃ」 「ぼくにですか?」 「さよう。あのオーガのことなんじゃが…」 「…オーガ?エヴァ…、のことですか?」 オスマンの眉がかすかに動いた。 「きみはアレをエヴァと呼ぶのかね?」 「ええ。正式にはエヴァンゲリオンと呼ばれてますけど」 「エヴァンゲリオン…、なるほど。あれの出生をきみは知っているのかね?」 「詳しくはわかりません。ただ、人から聞いた話しだと、15年の歳月をかけて造られたとか」 「造られた…!?誰に?」 「科学者の人達ですけど」 「カガクシャ?」 「あぁ、この世界で言うなら、メイジの様な人です」 鼠を撫でていたオスマンの指先が止まった。 「人?人がアレを造り出したのかね?」 「ええ」 「何の為に?」 「使徒に対抗する為です」 「シト?」 「僕が住んでた世界で、人類の天敵とされていたものです。ぼくの知人は、使徒を滅ぼさなくては人類に未来はない、と言ってました」 オスマンの目が見開かれた。 「もしや…、そのシトとは、【アダムより生まれし者】ではないかね…?」 オスマンの言葉を聞いたシンジは呆けた顔をした。 「なんで、知ってるんですか?」 「いや、なに。たまたまじゃよ」 それは、実に苦しい言い訳だった。しかし、シンジがそれ以上追求することはなかった。単純に、不自然な会話の流れに気付いていなかったのだ。 「大丈夫ですか?汗、すごいですよ?」 「もう歳でな、いつものことじゃ。それよりも、きみにお礼をしなくては」 「はい?」 「有意義な時間を過ごせたお礼じゃよ」 「ぼく、5分もいないですよ」 「十分じゃよ。そうだ、きみに良いことを教えよう。きみの左手に刻まれたルーンのことなんじゃが…」 オスマンはシンジの左手を指差すと、言葉を続けた。 「それはこの世界で伝説となっている【ガンダールヴ】のルーンなんじゃ。【ガンダールヴ】は我等の世界で絶対とされる【始祖ブリミル】の使い魔であった。その上、ありとあらゆる武器を使いこなし、千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持っていたそうじゃ」 しかし、シンジは、はぁ、と気の抜けた返事をするだけだった。 「お驚かんのかね?」 「ぼく、この世界の武器なんてろくに使えませんよ」 「そうか、きみは何も知らなかったんじゃな。使い魔は、主人となる人物と契約する際に特殊能力を得ることがあるんじゃよ」 「特殊能力?」 「そうじゃ。例えば何にも変哲のない黒猫を召喚したとするじゃろ。そうすると、人の言葉をしゃべれるようになったりするんじゃ」 「ぼく、猫じゃないですよ」 オスマンが再び微笑んだ。 「きみは純真無垢な子じゃな。まぁ、とどのつまり、人間を使い魔にした例なんて古今東西どこにもないんじゃ。つまり、きみの体に何が起きてもおかしくはないということじゃ、わかるね?」 「まぁ、なんとなくは…」 「よろしい。それとじゃな、碇くん、今の会話については、他言をしてはいけない」 「なぜです?ルイズさんにもですか?」 「さっきも言った通り、きみのルーンは伝説の【ガンダールヴ】と同一のものなんじゃ。それが露呈したら、王室のマッドメイジ共はまず間違いなく、きみの体をいじくりまわすじゃろう。手足を切断されたりするかもな」 「な、なるほど…」 ようするに、マッドサイエンティストということか。 「今夜は貴重な時間をありがとう。ミス・ヴァリエールの元に帰りなさい」 「はい、失礼します」 シンジが部屋から去ると、オスマンは窓の外に浮かぶ二つの月を睨んだ。 「第一始祖民族め…。どこの星でも同じ事をさせているのか。苛烈な生存競争の先に、一体、何があると言うんじゃ…?」 シンジが退室してから程なくして、学院長室にオスマンのお認め印が必要な重要書類の束を抱えたロングビルが訪れた。 「何もこんな遅くにやることもなかろう…」 オスマンは目の前に置かれた大量の書類にうんざりしてぼやいた。 「明日にでも、王室へ発送しないと間に合わないのです。オールド・オスマンが日頃から熱心に業務を執り行っていたら、こんなことにはなりません」 秘書の手痛い厭味に顔をしかめたオスマンは引き出しから印鑑を取り出すと、いかにも気が進まないといった様子で、書類にそれを押し始めた。 書類の内容に目を走らせてる様子は全くない。 だからといって、ロングビルはそれを咎めることをしなかった。お認めさえ貰えれば、後の事はどうにでもなるということだろう。 オスマンは印鑑を押す行為にもすぐに飽きた様で、前触れもなく突飛なことをロングビルに聞いた。 「きみはアダムとリリスがその関係に終止符を打った理由を知ってるかね?」 この老人は、たまに妙なことを口走る。日頃の付き合いから、ロングビルはそのこと知っていた。 「いえ。存じ上げませんが」 「アダムとリリスは神に遣わされた最初の人間だ。アダムは最初の男で、リリスは最初の女、そして二人は最初の夫婦でもあった」 「で、離縁した理由はなんですの?」 「セックスじゃよ」 ロングビルは露骨に眉をひそめた。 「セクハラが目的のお話でしたら、お断りします」 「いや、真面目な話しだよ。アダムは正常位を望み、しかし、リリスはそれを拒んだ。彼女は騎乗位の方が自然だと考えたんじゃよ。例え快楽に酔いしれる為の一時でも、相手より下の位地にはありたくない。 つまり、お互いに自分こそが上位に立つべき人間だと思い込んでいたんじゃ。人の傲慢な心というのは、そんな昔から、すでに芽生えていたんじゃよ」 オスマンの表情が変わった。いつになく真剣な目である。 「それが我々現代の人類にも脈々と受け継がれている。戦争が絶えないのも、当たり前だ。おまけに神様気取りの人間まで現れる始末じゃ。いやはや、世も末だよ。そうは思わんかね?」 「どうでしょう。でも、とても興味深い話しですわ」 ロングビルがこの部屋に来てから、初めて微笑んだ。 「どうじゃ、これから一杯ひっかけんかい?話しの続きをしようじゃないか。それに、以前、きみと呑んだ旨い酒の味が忘れらんのじゃよ」 「あら。でしたら、早く書類を処理なさらないと…」 オスマンの印鑑を押すスピードがあがった。 この女、なかなかの悪女である。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 初号機に宿る【彼女】の魂は日を追うごとにコアの深部へと沈んでいった。 【彼女】の目的は、あくまでも、【サードインパクト】の阻止。つまり、使徒の殲滅にある。 この世界において、【彼女】のレゾンデートル(存在理由)はどこにもないのだ。 その為、【彼女】の魂は閉塞された。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ トリステインに召喚されてから、一ヶ月。 シンジの一日を紹介すると、こんな感じである。 まず、世の中のほとんどの生物がそうであるように、朝起きる。寝床は相変わらず床ではあったが、ルイズの計らいで、今では寝具一式が用意されていた。つまり、畳の上に敷いた布団と思えば、何の不満もないのだ。 ちなみに早起きのシンジはルイズを起こさなくてはならない。 ルイズは起きるとまず着がえを始める。彼女は下着だけは自分で付けるが、制服はシンジに着させるのだ。最初こそは気恥ずかしい作業であったが、慣れてしまえばどうということもない。 そして、共に朝食をとると二人は別れる。 ルイズは学院の授業に赴き、シンジは掃除、洗濯にはげむ。 それが終わるとヴェストリの広場に擱座する初号機の点検が待っている。もちろん、この点検は整備を前提としたものではない。 最近になって、初号機に悪戯書きをする生徒が急激に増えているのだ。 その理由は学院に広まった性質(たち)の悪い都市伝説にある。 【勇気をもって、あのオーガに想い人の名前を書き記すと、その想い人とは必ず結ばれる】 その為、初号機には、生徒たちの実名が溢れ始め、シンジが仕方なくそれを雑巾で拭うのであった。 それを終えると、厨房に向かいシエスタを含むトリステインの使用人達と雑談をする。 夕暮れになって、ルイズと合流し、夕飯を頂き、しばらくは彼女の遊び相手になり、寝る。 それが、シンジのサイクルだ。 しかし、ある日を境にちょっとした変化が訪れた。 初号機の側に寄ると、彼の左手に刻まれたルーンが発光するようになったのだ。 「大変です!」 学院長室の扉が勢いよく開けられ、コルベールが躍り込んだ。 「きみは、いつまで経ってもノックを覚えないんじゃな」 「そんな場合ではありません!エ、エヴァが活動しています!!」 しかし、オスマンはその言葉に全く動ることなく、ふむ、とだけ呟くと、杖を降り例の鏡でヴェストリの広場の様子を覗きこんだ。 そこには緩慢な動作で歩行をする初号機と、その足元で驚愕の表情を浮かべるシンジの姿があった。 「ようやく、そこまで至ってくれたか…。全く、やきもきさせおって」 コルベールが怪訝そうな顔をした。 「まさか、予見していたのですか…?」 「予見?違うよ。このワシが促したんじゃ、こうなるようにな」 実のところ、あの都市伝説が学院中に広まるよう仕向けたのはこの老人であった。 その結果、シンジと初号機のコンタクト回数が飛躍的に伸びるのは目に見えている。 さすれば、シンジがガンダールヴの秘めたる力をもって、エヴァを使役するのに必要な時間が、かなり短縮されるであろう、そう目論んだのだ。 「オールドオスマン…。あの少年はアダム族なのでしょうか…?」 「いや、恐らくリリンじゃろうな。もし、彼がアダムの眷属ならば、ギーシュ・ド・グラモンとの決闘の際、【心の壁】を使っていたじゃろうて」 「し、しかし、アダムの眷属と【同化】出来るのは、アダムと同じ肉体の構造を持つアダムの眷属だけのはずです」 「きみはガンダールヴについてどこまで知っている?」 「始祖ブリミルの使い魔でありとあらゆる武器をつかいこなした存在としか…」 「では、なぜガンダールヴはありとあらゆる武器を使いこなせるんだね?」 「いや、その、存じ上げません…」 コルベールはしどろもどろになりながら答えた。 オスマンが軽いため息をつく。 「きみは博識の様にみえるが、肝心な事は何も分かっていないんじゃな」 「申し訳ございません…」 「いいか、よく聞きなさい。ガンダールヴがガンダールヴたる所以は、ガンダールヴが、神々より、【三つの実】を与えられたことにある。 一つは【生命の実】。これはアダム族が食した実じゃ。この実によって、ガンダールヴは驚異的な身体能力を手に入れた。 二つ目は【智恵の実】。これは、我々、リリンが食した実なんじゃ。そのおかげで、我々は文明を手に入れた。ガンダールヴはこの実の力によって、ありとあらゆる武器の最適な使い方を導き出す。 さて、ここでクイズじゃ。あの少年が自身の身の丈を越える程の鉄槌を手にしたらどうなると思う?実際にそういう武器を扱う平民の戦士はおるぞ」 突然、質問を投げ掛けられたコルベールは思ったことを素直に口にした。 「やはり、使いこなすのではないでしょうか…」 「半分正解で半分ハズレじゃ」 「と、申しますと?」 「確かに鉄槌を使いこなすじゃろう。生命の実によって、身体能力が向上しておるからな。しかし、使いこなすと言っても人並み程度じゃ。 伝説にあるように、千人の軍団と互角に立ち回る等、まず不可能じゃろうて。彼は小柄過ぎる」 「では、伝説が誤っていると?」 「そう、結論を急くな。ふむ、そうじゃな。彼が鉄槌を手にしてから一週間も経てば、人外と呼んでいいほど、自在に使いこなせるようになるじゃろうな」 「何故です?」 「それだけの時間があれば、彼は強靭で逞しい肉体へと成長を遂げるからじゃ。逆に、レイピアなどの俊敏さが要求される武器を彼に握らせれば、細く引き締まった身体になるじゃろう」 「どういう意味ですか?」 「その理由は【進化の実】にある。アダム族にも、我々、リリンにも与えられる事がなく、ガンダールヴのみに託された唯一無比の実じゃよ。 その実のおかげで、ガンダールヴは強くありたいと願えば、強くなるし、賢くありたいと願えば、賢くなる。常識外れのスピードでな。つまり、ガンダールヴは究極の進化システムを有した絶対的な存在なんじゃよ」 「な、なるほど…。オールド・オスマンの並々ならぬ知識には平伏するばかりです」 お世辞を言いながらも、コルベールはあることが心にひっかかって仕方がなかった。 この老人はガンダールヴに関して、なぜ、こんなにも詳しいのだろうか。 国内でもトップクラスの所蔵数を誇るトリステイン学院内図書館にも、ガンダールヴに関して述べられている書物は数点しかない。その上、それらの全てが曖昧な内容で、本によっては書いてあることも違う。 おそらく王室図書館も同様であろう。 しかし、この老人が出鱈目なことを言ってるようにも、思えない。筋がきちんと通っているのだ。老人の言葉はどんな書物よりも説得力があった。 その老人が再び口を開く。 「そのガンダールヴが魂のないエヴァと接触したらどうなる?答えは簡単じゃ。あれ程、強力な武器など、世界中のどこを探しても見つからんじゃろうて。ガンダールヴのルーンは喜んで刻印者の体を書き換えるじゃろうな」 「まさか…」 「左様。彼の肉体の構造は、今、アダムのそれになっているに違いない。リリンの魂を持ちながらアダムの肉体を持つ、新たな可能性を持ったヒトの誕生じゃ…」 オスマンが冷酷な笑みを浮かべた。 「オールド・オスマン…。あなたの真意はどこにあるのですか?」 オスマンが笑う。冷酷な微笑に冷度が増した。 「ミスタ・コルベール。私には優秀な駒が必要なんじゃ。それも、大量にな。全ては【神様気取りの馬鹿げた人間】に対抗するために」 「は、はぁ」 「きみにも、いろいろと働いてもらうぞ。私には君のような人間が必要だ」 コルベールは嫌な予感にかられた。 「はい、ありがとうございます」 「ただな、心してくれよ。もし、きみの口から、秘密が漏れるようなことがあれば、私は、きみを始末しなくてはならない」 オスマンの表情に凶暴な陰りがさしたように見え、コルベールの背中に冷や汗が流れた。 「は!杖に誓って!」 それしか、言えなかった。 会話に夢中になっていた為、不自然な地鳴りが接近してくるのに、二人揃って気付くのが遅れた。 窓の外を眺めると、真っ直ぐ本塔に向かい歩行する初号機の姿があった。 初号機の後ろには半壊した火の塔が見える。 「なるほど。オールド・オスマンはこれも予見していたのですね」 「…皮肉か?」 「と、とんでもありません」 コルベールが額に滲んだ汗をポケットから取り出したハンカチで拭った。 「どうやら、まだ、【同化】が甘いようじゃな。全く御しれておらん」 「しかし、いかが致しますか…?このままだと、本塔も火の塔の二の舞になりますぞ」 「まあ、本塔は他の建物に比べ、かなり強靭に作られている上、ありとあらゆる場所に【固定化】の魔法も施されておる。あの速度なら、突撃されてもそれ程の被害にはならんよ。それでエヴァも留められるじゃろ」 オスマンの予想通り、初号機はそのままの速度で本塔に直撃し、その動作を止めた。 しかし、大量の壁や柱が崩れ落ち、本塔が盛大に揺れたのは予想外だった。彼は初号機の重量を見誤っていたのである。 「これで、またエヴァ破棄派の教師達がうるさくなりますな」 「ああ。しかし、それよりも…」 オスマンは初号機がめり込んだ壁面を見つめた。 「まずいな…。宝物庫に近すぎる」 その光景を本塔の外から眺めていたロングビルが微笑む。突如、舞い降りた幸運を目にし、喜びに満ち溢れていたのだ。 「チャーンス…っ!」 彼女は静かに呟いた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『土くれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を震撼させているメイジの盗賊がいる。土くれのフーケである。 フーケはトリステイン全体を舞台にして、所狭しと盗みに励んでいた。夜陰に乗じて邸宅に侵入し、誰にも気付かれることなく対象を奪い去ったと思えば、白昼堂々王立銀行を襲ったりもした。 フーケの特徴は城でも壊せるような、巨大な土くれのゴーレムを使役すること、そして、扉や壁を錬金魔法によって土くれに変えてしまうことだ。 『土くれ』は、そんな能力を持つことからつけられた、二つ名なのであった。 そんな土くれのフーケの正体を見たものはいない。男か、女かもわかっていない。ただ、わかっているのは『土』系統のメイジであるということと、犯行現場の壁に『秘蔵の○○、確かに領収致しました』とふざけたサインを残していくこと。 そして、所謂マジックアイテム、強力な魔法が付与された数々の高名なお宝が名によりも好きということであった。 巨大な二つの月が、五階に宝物庫がある魔法学院の本塔の外壁を照らしている。 壁にめり込む初号機の肩の上には、長く青い髪を夜風に靡かせ悠然と佇む人影があった。 土くれのフーケである。 「予想通りね。オーガの腕が宝物庫の内側まで壁をぶち抜いてるわ…。これなら、簡単に【破壊の杖】を頂戴できるわね」 宝物庫は、一流のメイジが複数人も集まって、あらゆる呪文に対抗出来るよう設計されていた。 そのせいで、高名な土くれのフーケすらも迂闊には手を出せずにいたのだ。しかし、昼間の騒動により、呆気なく破壊されてしまった。 フーケにとって、恰好の機会が訪れたのだ。フーケがそれを見過ごすはずがなかった。 翌朝。 トリステイン魔法学院の教員室では、朝から蜂の巣をつついた様な騒ぎが続いていた。 何せ、秘宝【破壊の杖】が盗まれたのである。 朝、見回りの教師が宝物庫を点検した際、壁にフーケの犯行声明が刻まれていた為、事が発覚した。それから、しばらくして、教員の必死の現場検証により、初号機の開けた横穴が侵入経路であるということもわかったのだ。 すぐさま、ルイズとシンジが教員室に呼び付けられ、その場にいたほとんどの教師に吊し上げられた。 鳶色の瞳が潤んでいるのを見てシンジの心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 そこにオスマンが現れた。 「これこれ、子供をそういじめるものではない」 ルイズとシンジを叱り続けていた教師がオスマンに訴える。 「しかしですね。全責任は彼等にあります。やはり、あのオーガ、処分するべきですよ!」 「子供をくどくど叱ったところで【破壊の杖】が返って来るわけでもなかろう。それにオーガの処分がどうとか言う議論も、今、やったところで無意味じゃ」 それから、オスマンは、気付いたようにコルベールに尋ねた。 「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」 「それがその…、朝から姿が見えませんで」 「この非常時に、どこに行ったんじゃ」 「どこなんでしょう」 そんな噂をしているところにミス・ロングビルが現れた。 彼女は、今朝、事が露見してからというもの、単独でフーケの行方を調査していたようで、近在の平民から有力な情報を得たといった内容の報告をオスマンにした。 「仕事が早いの。ミス・ロングビル」 コルベールが慌てた様子で促した。 「で、その情報とは?」 「はい、フーケは近くの森の廃屋を隠れ家としている模様です。その平民が言うには、今朝方、巨大なゴーレムを従えた黒ずくめのローブを来た男が、その廃屋に入っていったようです」 「ふむ、調べてみる価値はありそうじゃな」 オスマンが、髭を撫でながら言った。 「で、そこは近いんですか?」 コルベールが問う。 「はい、徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」 「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」 一人の教師が叫んだ。 オスマンは首を降ると、目をむいて怒鳴った。年寄りとは思えない迫力であった。 「馬鹿者!身に降りかかる火の粉を己で払えんで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは魔法学院の問題じゃ!当然、我等で解決する!」 オスマンは咳ばらいをし、有志を募った。 「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」 しかし、誰も杖を掲げない。皆、困ったように顔を見合わせるだけだ。 「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」 ルイズは俯いていたが、それからすっと杖を顔の前に掲げた。 「ミス・ヴァリエール!」 一人の女教師が驚きの声を上げた。 「何をしているんですか!あなたは魔法も未熟な生徒じゃありませんか!」 「お願いします。私にやらせて下さい、オールド・オスマン!自分で犯した不始末くらい、自分で始末を付けさせて下さい!」 ルイズはきっと唇を強く結んで、言い放った。真剣な目をしたルイズは凛々しく、美しかった。 その様子を見て、オスマンは軽く笑った。 「そうか。では、君に頼むとしよう」 教師達が口々に反対の声をあげる。 「返り討ちにあうのが関の山です!」 「何故、そんな馬鹿げたご決断を…!」 オスマンは、教師達の言葉に取り合わず、ルイズに言葉を投げかけた。 「魔法学院は、君の努力と貴族の義務に期待する!」 ルイズは直立し威勢よく言い放った。 「この杖にかけて!」 それからスカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。 シンジは呆けた様子でその光景を見守っているだけだった。 その後、シンジは、オスマンに促され、初号機の前まで連れて来られた。 ルイズは、案内役を務めることになったミス・ロングビルと共に出発の準備をしている。 「昨日は失敗したようじゃな」 「すいませんでした…。校舎を壊してしまって」 「なに、気にすることはない。幸い怪我人もおらんかった」 「あの…。このルーンは…、ガンダールヴとは一体なんなんですか?昨日、このルーンが発光して、それで気付いたらエヴァとシンクロしているような感覚に陥って…、冗談で歩く様に思ったら本当に歩いてしまって…」 シンジは不安げな声でとつとつと語った。 「伝説の使い魔のルーンじゃよ。先日、説明した通り、それが全てじゃ」 もちろん、この言葉は嘘である。オスマンは、今の段階でこの少年に全てを語るのは時期尚早と考えているのだ。 「この前、おっしゃっていた特殊能力ってやつなんでしょうか?」 「おそらくな。さぁ、昨日と同じ様にやってごらんなさい。意識を集中させ、呼吸は深く」 「だけど、昨日と同じことになってしまったら…」 「最初から、失敗することを考えてはならん。成功するイメージを強く持つんじゃ。それに、ここで君が諦めたら、ミス・ヴァリエールの命も今日限りじゃろうな」 シンジが眉をひそめる。 「ミス・ヴァリエールに対して失礼を承知で言うが、彼女が『土くれのフーケ』と対峙するなんてことは、性質(たち)の悪いパーティージョークにもならん。 使い魔である君は、ミス・ヴァリエールの実力の程をよく理解しておるじゃろ。土くれのフーケは、その所業はともかく、非常に強力なメイジじゃよ。ミス・ヴァリエールの決断は、はっきり言って、蟻が象を倒そうとするくらい愚かな行為じゃ。 それでも、彼女が退くことはないじゃろう。彼女の覚悟は本物じゃ。わしはそう確信しておる。じゃから、やられるよ、あっさりとな。君はそれでいいのかい?」 「そんなの…っ!決まってます、よくないです。だけど、ぼくには何も出来ない…」 それだけ言うと、シンジは悔しそうに拳を握りながら俯いた。 オスマンはそんなシンジの頭を優しく撫でる。 「何を言ってるのじゃ。君には、このオーガがいるじゃないか。このオーガを使役する君なら、間違いなく土くれのフーケごときには遅れをとったりはせん。わしが保証しよう」 シンジが顔を上げる。彼の瞳には、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる老人の顔が映った。 「ぼくに出来るんでしょう…?」 「君が望むのであればな。さ、やってみなさい…」 シンジは瞳を閉じ、意識を集中させた。 少年の決意に答えるかのごとくガンダールヴのルーンが鮮やかな青色の光を放ち始めた。 まず、初号機の両腕が動いた。手の平で壁を押し上げ、自らの体をそこから引き抜いたのだ。 その振動で、石くれや砂埃が地面に舞う。 それから、ゆっくりと数歩だけ後退し、その場所に直立した。 「…動いた。オスマンさん、ぼくの思った通りに動きましたよ!」 シンジが興奮気味に叫ぶ。 「成せば成る、何事もな」 オスマンは少年に向かってにっこりと微笑んだ。 電力もエントリープラグすらも必要としない初号機の自立起動、それはシンジの世界の常識に照らし合わせれば、不可解極まりない自体のはずだった。 しかし、オスマンの思惑通り、シンジは偶発的に発揮されたガンダールヴの特殊能力によるものと思い込んでしまった。不利益などあろうはずがない、そう信じて疑わなかったのだ。 シンジが自身の体の変化に気付くのはまだまだ先の話である。 その為、彼のアダム族としての肉体は、次第にリリンの魂に馴染んでいった。取り返しがつかなくなるのも、そう遠い日ではない。 「じょ、冗談じゃないわ。そんなの連れていけないわよ」 ルイズは、待ち合わせ場所に現れたシンジの後ろにいる巨大な初号機を見上げ、顔をこわばせながら言った。 彼女の言い分はもっともである。なにせ、先日、死ぬような思いをさせられたばかりだし、その上、頭を抱えたくなるようなこの現状を作り出したのも、結局は初号機なのだ。 ミス・ロングビルはというと、顔を蒼白させたまま押し黙っていた。当然の反応なのかもしれない。しかし、勇気を振り絞り、それでもやっぱり震える声で、オスマンに向かい言った。 「私もミス・ヴァリエールの意見に賛成です。危険を増加させるだけのような気がします。それに今回の任務には隠密性が重要です。こんな巨大なオーガを従えていたら、フーケに、貴方を追跡する私達はここにいますよ、と言っているようなものですわ」 オスマンは首を横に振ると、二人を窘める様に言った。 「相手はあのフーケじゃ。使えるものは何であろうとも使い切る、それくらいの心構えで臨まないと、苦心を舐めさせられるだけじゃよ」 ルイズがそれに反論した。 「しかし、オールド・オスマンもヴェストリの広場での事件をご存知のはずです。このオーガは狂気の塊です。そんなものには、背中をあずけられません。ただでさえ、危険な任務なのに、背後すらも気にしなくてはいけない様では、それこそ達成は困難です」 「前を歩かせれば済む話じゃ」 オスマンが呑気な声で揚げ足をとると、ルイズの肩が振るえ始めた。 「そういう事を申し上げてるんじゃございません!」 「わかっておるよ。それに大丈夫じゃ。君達の心配するようなことは起きん。彼はこうして立派にこのオーガを制御しているではないか」 しかし、ルイズは納得がいかない様子だった。 オスマンは彼の長い髭を摩った。 「ふむ、そうじゃ、ミス・ヴァリエール。わしから交換条件をだそう」 「交換条件…、ですか?」 「もし、君がこのオーガの同行を認めるならば、火の塔及び本塔の修繕にかかる全費用を本学院が負担しよう。つまりチャラじゃ。どうだね、悪くない条件だと思うのじゃが」 突然、提示された破格の条件にルイズは目を丸くした。当然の事ながら、あれだけ破壊された校舎を、彼女がもらう実家からの仕送りだけで、修復することなど不可能だ。 と、すると、両親に泣き付かなければならなくなる。ヴァリエール家はトリステインの名門だ。払えないことはないだろう。 しかし、大目玉を喰らうのだけは免れない。もし、オスマンの提案を飲めば、その悩みは解消される。 結論は簡単に出た。 「オールド・オスマンがそこまで譲歩して下さっているのに、お断りするなんて出来ませんわ」 ルイズは微笑んだ。 ミス・ロングビルの顔からは血の気が完全に失せた。 それから、一行はロングビルが用意した馬車に乗り込んだ。 馬車といっても幌のない荷車に馬二頭を固定しただけの粗末なものである。土くれのフーケに奇襲を受けた時に、豪華な籠車よりも散開しやすいというのが理由だ。 御者を担うことになったロングビルが鞭を振るうと、従順な馬達が走りだす。 それを見届けていたオスマンに背後から声をかける者がいた。 コルベールである。 「彼は勝つでしょうか…?」 「ああ、間違いなくな。土くれのフーケごときでは手も足も出んじゃろ」 エントリープラグを経由して初号機とシンクロする場合、初号機の視覚が捉えたものはエントリープラグの内壁に投影される仕組みになっている。 しかし、ガンダールヴを利用したシンクロだと初号機の視覚まではリンクされないようだった。 ちなみに俯瞰視点からの操縦は思った以上に困難で、出発直後の初号機は事あるごとに転倒し、荷車を牽引する馬を、一々、驚かせていた。 そして初号機の転倒数に比例して、馬の手綱を握るロングビルの血色は明らかに良くなっていった。今では、その端正な顔立ちに笑みすら浮かべている程だ。 「意外とお茶目なんですね、このオーガは」 そんな言葉まで口から出始めた。単純に滑稽な初号機の姿を楽しんでいるだけなのかもしれない。 しかし、一時間も経つと【サードチルドレン】という名に恥じない華麗な操縦をするシンジの姿があった。 この少年は根が真面目なだけあって、移動中、来たるべきゴーレムとの戦いに備えて、初号機の訓練を続けたのだ。 地球では何度も搭乗した機体である。その為、下地だけは十分に出来上がっていたので、コツを掴んだ後の彼の成長ぶりは劇的なものだった。 目の前で初号機の前方宙返りを披露されたルイズは呆気にとられて呟く。 「すごい…。こんな曲芸まで出来ちゃうんだ」 初号機が着地した際に発生した衝撃により、地面がめくれ、巨大な土の固まりが宙を舞った。 「やろうと思えば、300メイルくらい簡単に跳躍できますよ」 シンジが自信に満ち溢れた声で断言した。 「ほんとに!?すごいじゃないの!」 「これがエヴァの本当の姿です」 それから、シンジは初号機の事について、彼が知りうる知識を事細かくルイズに向かって説明した。 初号機の左肩部に納めされているナイフを使えば、いかなる金属も容易に切断可能であること。初号機の体の周りを覆う装甲は短時間であれば、高熱のマグマに浸そうが十分に耐えられる性能を持っていること。 そして、初号機の展開するA.T.フィールドは、同じA.T.フィールドに中和されない限り、ほぼ全ての攻撃を無効化するということ。 シンジの言葉を聞いていたルイズの鳶色の瞳がきらきらと輝きだす。 この少年は実に控えめな性格である。だから、間違っても大見栄を切る為だけに嘘言を呈することなどは考えられないのだ。 つまり、彼の言葉は全て真実に違いない。ルイズは、そう確信した。 「土くれのフーケなんて目じゃないわね」 「たぶん、そうですね」 シンジが微笑む。 すると、ロングビルが体調の不良を訴え、仕方なくルイズが代わりに手綱を握ることになった。 シンジには経験がない為である。 必然的に、シンジがロングビルの看病をすることになった。 「あの、大丈夫ですか、ロングビルさん?」 シンジが心配のあまり、横たわるロングビルに尋ねた。 「ええ。なんとか…」 言葉とは裏腹に、ロングビルはどんどん容態を悪化させていった。そんな彼女が無理して口を開く。唇が真っ青だった。 「あの、碇くん。さっきの言葉は本当ですか…?」 「さっきの言葉?」 「あのオーガの潜在能力…」 「ええ、本当です。土くれのフーケなんて、すぐに片付けてみせますよ。だから、ロングビルさんは安心して横になっていて下さい」 ロングビルはあっさりと自身の意識を手放した。 ルイズとシンジは二人揃って顔を青くした。 急激な症状の悪化、そして、ついには昏倒してしまったのだ。なにか生命に関わるような病なのではなかろうか。二人の頭には最悪の展開がよぎった。 「ど、どうしましょう、ルイズさん?」 「トリステイン学院に戻るしかないわね」 「土くれのフーケは?」 「人の命には変えられないわよ」 ルイズは少しだけ残念そうに呟いた。 しかし、その台詞に嘘はなかったらしく、手綱を操ると馬車をもと来た道に引き戻した。 その時、空を舞う一匹の風竜がルイズの視界に飛び込んで来た。猛烈な速さでこっちに向かって飛翔している。その背には見知った顔が二つ、キュルケとタバサだった。 ルイズの姿を捉えた風竜が馬車の側に舞い降りた。 「キュルケにタバサ!あんた達何しに来たのよ!」 キュルケが風竜から飛び降りて、前髪をかきあげた。 「学院中の噂になってるわよ。ルイズが、あのゼロのルイズが、学院一番の落ちこぼれが、土くれのフーケの討伐にでたってね。身の程知らずもいいとこだわ。だから、あんたがやられるところを見学しに来たの」 「さっきと言ってることが違う…」 タバサがぽつりと呟いた。 「しっ!タバサ、あなたは黙ってて」 キュルケがタバサを制した。 なんだかんだ言っても、ルイズのことが心配で駆け付けたのだろう。シンジのなけなしの勘が、そう告げていた。 すると、ルイズが誇らしげに胸をはる。 「あんた、あのオーガが見えないの?」 キュルケのこめかみに汗が滲んだ。 「……それも学院中の噂になってたわ。ルイズの使い魔が例のオーガを引き連れて、校門の外に消えたって。これ、どういうことよ?なんで動いてんのよ?」 キュルケは、暴走時の初号機しか知らない。その為、初号機には拭いがたい畏怖の念を抱いているのだ。 「いい、よーく聞きなさいよ?このオーガはシンジの使い魔なの。つまり、私の使い魔は、使い魔でありながら、使い魔を使役する素晴らしい使い魔なのよ!」 「なんか、早口言葉みたいですね」 シンジがちゃちゃを入れるとルイズに、ばか、と一言説教された。 「つまり、今はシンジ君の制御下にあるわけ?」 キュルケがシンジに尋ねる。 「ええ」 「暴れたりしない?」 「大丈夫ですよ」 シンジの言質をとったキュルケは、少しの不安をその豊かな胸に残しながらも、再び余裕の態度を取り戻した。 「じゃ、行くわよ、ルイズ」 「どこによ?」 「フーケの所に決まってるじゃない」 「無理よ」 「どうして?」 ルイズが昏倒したままのロングビルを指差した。 「ミス・ロングビルの体調が優れないの。ひょっとしたら、何か重い病なのかもしれないし…」 キュルケがタバサを見遣る。 「わかった」 キュルケの言いたいことを瞬時に察知したタバサは、ロングビルの体に物体浮遊魔法【レビテーション】をかけ、彼女の使い魔である風竜の背に乗せた。 「頼むわよ」 キュルケの言葉にタバサは軽く頷き、風竜に指示をだした。 「シルフィード、トリステイン学院へ」 シルフィードと呼ばれた風竜は短く鳴いて、了解の意を主人に伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を羽ばたかせた。あっという間に高空にのぼり、トリステイン学院に向け飛んでいった。 「さ、後顧の憂いは絶たれたわよ。行きましょうか」 キュルケの言葉通りトリステイン学院に戻る理由のなくなった一行はフーケの隠れ家へと馬車を走らせた。 しかし、それはシンジの苦行の始まりに過ぎなかった。 まず、誰が手綱を握るかで喧嘩が始まった。シンジの無難な提案で代わりばんこにやることになった。 次にルイズが用意していたお昼のお弁当をきっかけにして、喧嘩が始まった。味付けは薄い方がいい、だとか、恋と一緒で何事も濃い方がいい、だとか、シンジからすればどうでも良い内容ばかりだった。 その後もルイズとキュルケの口喧嘩は絶える事なく続き、それを宥める役目のシンジがいい加減に辟易してきた頃、馬車は深い森に入っていった。鬱蒼とした森が三人の恐怖を煽る、…わけがなかった。前方を歩く初号機が行く先を阻む木々を次々と薙ぎ倒しているからである。 「土木用に使えるわね」 その光景を眺めていたキュルケが軽口を叩いた。 しばらくすると、一行は開けた場所に出た。森の中の空き地といった風情である。 ロングビルの情報通りその中心には確かに廃屋があった。元は樵小屋だったのだろう。朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。 人が住んでる気配は全くない。本当にフーケはあの中にいるのだろうか? 二人の少女が同様の考えを頭に巡らせていた時、唐突にシンジが口を開いた。 「この情報、ガセじゃないですか?」 「なんでよ?」 ルイズが尋ねた。 「だって、ロングビルさんが言ってたじゃないですか。フーケは巨大なゴーレムを従えて廃屋に入っていったって。フーケの作り出すゴーレムはおよそ30メイルの巨体ですよね?40メイルのエヴァとあまり変わりのないゴーレムが森を破壊せずに進むなんて有り得ないですよ。 なのに、この空き地のどこを見ても、そんな様子は全くないじゃないですか」 シンジの言うことはもっともだった。 無駄足だった事に気付いた二人の少女が揃って溜息をつく。 「一応、中の様子を見てきますね」 「そ、頑張ってね」 ルイズは力無く言った。緊張の糸が一気に切れてしまったようだ。 シンジは小屋の側まで、近づくと窓越しに中を覗いてみた。やはり、小屋の中に人影はない。 部屋の中には埃の積もったテーブルと、転がった椅子があるだけだった。 しかしながら、シンジを驚かせるには十分な代物がテーブルの上に置かれていた。それはシンジのよく知る物だったのだ。 ――あれは…、マゴロク・エクスタミネート…。 しかし、その【代物】はシンジが知っているそれよりもはるかに小さい。ちょうど、人が扱うようなサイズだ。恐らく試作品か、それに近いものなのだろう。 シンジは小屋の中に入ると、それを手にとった。 やはり、あれに間違いない。もしかして、これが破壊の杖なのだろうか。 シンジは小屋から出て、ルイズに声をかけた。 「ルイズさん、破壊の杖って、これのことですか?」 シンジから差し出された物を驚きの表情で凝視したルイズは慌ててポケットの中から折りたたまれた一枚の紙を取り出した 。 ルイズは破壊の杖を見たことがない。その為、破壊の杖の成形が描かれた紙をオスマンから預かっていたのである。そして、紙に描かれたスケッチとシンジの手にするそれの姿は酷似していた。 「間違いないわ…。それこそが破壊の杖よ」 杖?これのどこが? シンジは少し納得がいかない様子だった。 「と、とにかく、任務達成よ!」 ルイズがシンジに向かってピースサインを送った。 ロングビルは保健室でいまだ昏倒したままである。かと言って、命に別状があるわけでもないようだ。トリステイン学院に常勤する医師によると、過度のストレスが原因ではないかということだった。 学院長室で三人の報告を聞いたオスマンが微笑む。 「よくぞ、破壊の杖を取り返してきた」 誇らしげに、ルイズとキュルケが礼をした。 「一件落着じゃな。君達二人の働きに貢献する為に、【シュヴァリエ】の爵位申請を王室に出すつもりじゃ。追って沙汰があるじゃろう」 二人の少女の顔が輝く。 「本当ですか?」 キュルケが驚いた声で言った。 「嘘はない。君達はそれくらいのことをしたのじゃからな」 ルイズがちらっとシンジの顔を伺う。 「オールド・オスマン。シンジには何もないんですか?」 「残念ながら、彼は貴族ではない」 「ルイズさん、気にしないで下さい。ぼくは何もいらないですよ」 シンジが言うと、オスマンはぽんぽんと手を打った。 「さてと、今日の夜は【フリッグの舞踏会】じゃ。この通り、破壊の杖も戻ってきたし、予定通り行う」 「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました」 キュルケの様子が急に慌ただしくなった。 「今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意してきたまたまえ。せいぜい、着飾るのじゃよ」 二人は礼をするとドアに向かった。しかし、シンジは動こうとしない。ルイズがその姿を見て、立ち止まる。 「先に行ってて下さい」 シンジが言うと、ルイズは心配そうに彼を見つめた後、頷いて部屋を出ていった。 「なにか、わしに聞きたい事があるねかね?」 シンジは頷いた。 「あの破壊の杖はぼくがもといた世界の武器です」 オスマンの目が光る。 「ふむ、もといた世界とは?」 「ぼくはこの世界の人間じゃありません」 「本当にそう思っているのかね?」 「間違いないです。ぼくの世界の常識はハルゲキニアは全く通用しません。ぼくは、ルイズさんの召喚でこっちの世界に呼ばれたんです」 オスマンは目を細め言った。 「ハルゲキニアの星空を見たことはあるかい?」 「はい?」 「答えははそこにあるんじゃよ、おそらくな」 オスマンの頭の中には、すでに一つの仮説が出来ていたのだ。 「よく分かりません」 「今はそれでいいんじゃよ」 オスマンが微笑む。 うやむやにされた気もしないでもなかったが、それには目をつむり、シンジは一つの疑問をオスマンに投げかけた。 「あれは…、破壊の杖はぼくの世界で、【マゴロク・エクスタミネート・ソード】と呼ばれていました。つまり、剣です。形状だって、どこからどう見ても剣のはずです。なぜ、あれが破壊の『杖』なんですか?あれをこの世界に持ってきたのは誰なんですか?」 オスマンは溜息をついた。 「あれをわしにくれたのは、わしの命の恩人じゃ」 「その人はどうしたんですか?その人はぼくと同じ世界の人間です。間違いありません」 「死んでしまった。今から300年も昔の話じゃ」 「300年?」 「わしは350歳くらいになる。正確な年齢は忘れてしまったよ。永く生き過ぎたせいでな」 「こっちの世界の人はそんなに長寿なんですか?」 「いや、わしだけじゃよ。普通の人間なら100年も生きられん。話を戻すが、300年前、森を散策していたわしは、ワイバーンに襲われた。 そこを救ってくれたのが、あの破壊の杖の持ち主じゃ。彼は破壊の杖でワイバーンを切り裂くと、ばったりと倒れた。怪我をしていたのじゃ。わしは彼を学院に運び混み手厚く看護した。しかし、その甲斐なく……」 「亡くなられたんですね?」 オスマンは頷いた。 「わしは恩人の形見に、『破壊の杖』と名付け宝物庫にしまいこんだ。もちろん、わしにも、わかっておった。あれは剣だとな」 「では、何故…?」 「君も知っておろう。剣は平民の武器じゃ。貴族は杖を使う。わしは自分の恩人が使用した武器に敬意を表して『杖』と銘打った。ただ、それだけのことじゃよ」 オスマンが遠い目になった。 「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとの様に繰り返しておった。『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』とな」 「いったい、誰がこっちにその人を呼んだんですか?」 「それはわからん。どんな方法で彼がハルゲキニアにやってきたのか、最後までわからんかった」 「そうですか…。もとの世界に戻るきっかけになればと思ったんですが…」 「力になれんで、悪いの。ただ、これだけは言っておく。わしはいつだって君の味方じゃ」 オスマンはそう言うと、シンジの体を抱きしめた。 「よくぞ、恩人の形見を取り戻してくれた。改めて礼を言うぞ」 「いえ……」 「君は平民だ。爵位を与えることは出来ない。その代わりにこの破壊の杖を君に授けよう」 「いえ、そんな…。オスマンさんの恩人の形見じゃないですか。とても、受け取れません」 オスマンがシンジの頬を撫でた。 「君はまだまだ幼い。望郷の念にかられることもあるだろう。その慰めにでもしなさい…」 「……本当にいいんですか?」 「もちろんじゃ」 オスマンは二刀一対のマゴロクソードをシンジの手に握らせた。 アルヴィースの食堂の上の階が大きなホールになっている。舞踏会はそこで行われていた。シンジはバルコニーの枠にもたれ、星空をぼんやりと眺めていた。 オスマンの言葉が、頭の中でリフレインする。 『ハルゲキニアの星空を見たことはあるかね?』 一人寂しく佇むシンジの姿に気付いたキュルケが彼のもとに近寄ってきた。純白のドレスがきめ細やかな褐色の肌を際立たせている。胸元が不必要なまでに開いていた。 「シンジ君、なにしてるの?」 「いえ、星空を眺めていたら、なんだか、懐かしくなってきちゃって…」 「あら、意外とロマンチストなのね」 「違うんです。星の配置だけは、ぼくのいた世界と似通ってるみたいで…、それで、なんとなく」 その時、一人の男子生徒がキュルケに声をかけた。 「ミス・ツェルプストー。もし、よろしければ、僕と…」 男子生徒がキュルケに右手を差し出す。ダンスに誘っているのだ。 「喜んで」 微笑みを浮かべたキュルケがシンジに向き直る。 「ごめんね、シンジ君」 「いえ。それよりも、楽しんで来て下さい」 キュルケの姿がホールへと消える。 黒いパーティドレスを着たタバサは、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘していた。 皆、それぞれにパーティを満喫しているようだった。 ホールの壮麗な扉が開き、ルイズが姿を現した。シンジに舞踏会の参加を強制させたくせに、えらく遅い登場である。 門に控えた呼出しの衛士が、ルイズの到着を告げた。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなーりー!」 主役が揃ったことを確認した楽士たちが、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。 いつの間にかギーシュがシンジの横にいた。顔が真っ赤だ。相当、ワインを頂戴しているのだろう。 「こうやって、着飾るとルイズもかなりの美人だな。ほら、見なよ。今まで、ルイズの事をからかっていた生徒たちがルイズにダンスを申し込んでる」 「ルイズさんは普段から美人ですよ」 ギーシュが軽く笑った。 「そうか、そうかもな。しかし、そんな美人と毎日寝食を共にできる君は幸せ者だな」 「そうでもないですよ。ずぼらだし、わがままだし…。服くらいは自分で着てもらいたいです」 さっき、一杯だけ飲んだワインが原因なのだろう。シンジにしては珍しく軽口を叩いた。 「他人には見せないありのままの姿を見せる…、それって家族ってことだろ?トリステインに身寄りのない君にとっては有り難い話じゃないか」 シンジは息を飲んだ。 「……ギーシュさんて、いい人だったんですね」 「おいおい。何を今更…」 ギーシュはわざとらしく髪をかきあげる。 「ま、あの時は殴ったりして悪かったな…」 シンジの背中を掌でぽんと叩くと、ギーシュは豪華な食事の並ぶ円卓へと向かった。 入れ代わりにルイズがやって来た。ほんのりと赤みを帯びたシンジの頬に気付いたルイズは腰に手をやって、首を傾げた。 「楽しんでるみたいね。」 「ええ。ルイズさん、ドレス似合ってますね」 「ありがと」 「踊らないんですか?」 「相手がいないのよ」 ルイズが手を広げた。 「いっぱい、誘われてたじゃないですか」 ルイズはシンジの言葉を無視した。 「ね、一緒に踊らない?」 「ぼく、ダンスわからないですよ」 「いいのよ、教えてあげるから」 「ぼくでもできますか?」 ルイズはドレスの裾を恭しく両手で持ち上げると、膝を曲げてシンジに一礼した。 「わたくしと一曲踊って下さいませんこと。ジェントルマン」 きらきらと輝く微笑みを浮かべたルイズがシンジの手をとった。 「私に合わせてね」 シンジは見よう見真似でルイズに合わせて踊りだした。 「ねえ、シンジ…」 「なんですか?」 「私、今ではあなたを召喚して本当に良かったって思ってるの。もちろん、あのオーガがいたからとか、そう意味じゃなくて…」 「ぼくもご主人様がルイズさんで良かったと思ってますよ」 ルイズは軽やかに優雅なステップを踏みながらシンジに尋ねた。 「シンジはもとの世界に帰りたい?」 「ええ。帰らなくちゃならないんです。ぼくにはやらなくてはならないことがありますから…。でも、どうやったら、帰れるかだなんて分かりませんし、もうしばらくはよろしくお願いします」 破壊の杖は一つの事実を示唆していた。マゴロクソードはセカンドインパクト発生後に造られた武器である。300年も昔にあるわけがない。つまり、地球とハルゲキニアの時間軸は間違いなくリンクしていないのだ。よって、焦って帰る方法を探す必要はどこにもない。 のんびりとその時を待てばいい、シンジはそう考えていた。 「こちらこそ、よろしくね。私の可愛い使い魔さん」 シンジが微笑む。 「はい。ぼくはゼロの使い魔ですから…!」 フーケ、 侵 第参話 入 終わり ワ 第四話 ル ド 、来訪 へ続く 【新世紀エヴァンゲリオン×ゼロの使い魔】 ~想いは、時を越えて~ 第一部 完
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父タイキブリザード -
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「大丈夫? タバサ」ルイズが改めてタバサに問いかけた。タバサの周りには、かつてイザベラであった塵が舞っている。 いまさっきまで敵対していたとはいえ、実の従兄弟が死んだのだ。普通の精神ならば、いくらか精神に変調をきたしてもおかしくないはずだった。 だが、タバサは、 「大事無い。それよりもあなたたちの傷の治療をしなければ」 そういいきり、淡々と杖を振った。が、ルイズにかけられた治療の速度がいつもと段違いに遅い。それは、 「タバサ。それはイザベラの杖よ」 タバサが振った杖はイザベラの杖であった。あわてた風に取り替えるタバサ。 ようやくルイズの治癒が終わるころ、気絶したはずのキュルケから苦痛の吐息が発せられた。どうやら彼女の意識が回復したようであった。 「大丈夫、キュルケ?」 立てる? と問いかけたルイズだったが、キュルケは目を開き、気丈に微笑んで見せる。 「ええ、少々体力が不安だけれどね。ルイズ、立つのに腕を貸して頂戴」 「ええ、いいわ」 近づくルイズに右手を差し伸べたキュルケは、 「こういうことならもっと体力をつけておけば――」不自然に口調をとぎらせた。 「キュルケ?」 「危ないッ!」キュルケは持てる限りの力で、ルイズとタバサの二人を押し倒した。 ルイズにおおいかぶさるキュルケ。 「いたた、どうしたのよ――ってキュルケ!」 キュルケの背中には、いつの間にか何十本もの大小の純銀のナイフが突き刺さっていた。彼女の意識はすでにない。 「タバサ! 急いで治療を!」ルイズが叫んだ。 「わかった!」 頷いたタバサは足をもつらせながらキュルケのほうへと走りよる。 しかし、 「そのような好機など。与えんよ」 タバサはいつの間にかジョゼフに肩をつかまれていた。 「そんな!」 「いつの間に?」気配はまったくなかった。 このままではキュルケの治療ができない。タバサは力の限りもがく。と同時に、振り返りざまに氷の塊をジョゼフめがけて打ちはなつ。 「?」 だが、ジョゼフはその場から消えうせたかのようにいなくなっていた。ジョゼフの姿を捜し求めるタバサ。 と、そこに、 ルイズの絶叫が響き渡った。 「あなた、何をするつもり?!」 タバサがその方向に目をやると、微動だにしないキュルケを抱きかかえるルイズと、薄ら笑いを浮かべて突っ立っているジョゼフがいた。 「このナイフは私が投げたものだ。だから、しっかりと回収しなくては」 彼は一本一本、勢いよく、キュルケに刺さっているナイフを引き抜き始めた。 ズチュッ。ズルチュチュッ! その度ごとに、キュルケの傷口からどす黒い血液が噴水のように放出されてゆく。 「やめてぇ!」 ルイズは絶叫とともに、彼女を庇いたてるように、いやいやとキュルケを抱える腕を振り回した。そのたびごとにキュルケの赤い血液がルイズの顔に降り注ぐ。一方のジョゼフはそれを愉快そうににやけてみるだけである。 キュルケたちを傷付けずに、ジョゼフのみを攻撃する方法は―― タバサは一瞬の判断のうちに『ブレイド』の魔法を唱え、自分の長い杖に魔法力をまとわりつかせる。 あまりに危険。だが、ジョゼフの意識がルイズに向かっている今が唯一のチャンスでもある。タバサは無言で杖を逆手に持ち、ジョゼフの脇腹めがけて、体当たりをした。 だが、またもやジョゼフはタバサの視界から消えうせた。 「消えた?」 「……でも、この消失は僥倖とすべき。ルイズ、お願い」 ルイズはキュルケを床に寝せ、周囲を警戒する。 タバサは急いでキュルケに治癒魔法をかけ始めた。幾重にも噴出していた血が徐々におさまっていく。 しかし、キュルケが今までに流出させた血液の量も尋常ではない。普段は日焼けで浅黒いキュルケの顔色が、すでに青白く変色している。 「キュルケは後どのくらいで回復する?」 「もうすぐ」 そう応えながらも、タバサはあせっていた。回復してゆく時間が惜しい。いつになく回復が遅い気がする。自分の魔法力では、こんな速度でしか治癒できなかったか? なかなか治らない。今やっと傷口が閉じられた。後は体力の回復をしなければ。 ミシッ。 「今の、何の音?」 「わからない」 ルイズの問いかけに、タバサも周囲を見渡すが、あたりは薄暗く、あまり視界は良くない。タバサが作り出した氷のレンズも、いつの間にか消えうせてしまっていた。 と、天井を見上げたルイズが叫ぶ。 「崩れるッ!」 高さが三メイルほどの、廊下の石造りの天井に、大きな亀裂ができていた。 ルイズたちはその真下にいる。 その瞬間、奇妙な爆発音とともに、天井が巨大な無数の破片となって三人に降り注いだ。 タバサは真上に向け、自分達を包み込むように風の障壁を作り出す。出力は全開。今のタバサのもてる限りの力だ。 だが、巨大な瓦礫の勢いは埋め尽くすかのように雨あられと降り注ぐ。タバサは自分の杖と腕に、支えきれないほどの重力の力を支える結果となった。 「私に任せて!」 ルイズはそういいながら、杖を真上に向ける。 彼女はできる限りの早口で、虚無の魔法を唱えだした。 爆発。 ルイズのエクスプロージョンの魔法である。タバサは自分の杖に科せられていた圧力が急速に減衰していくのを感じていた。 ルイズの魔法により、瓦礫は粉塵となって周囲に吹き飛んだ。ただでさえ良くない視界がなおも悪くなる。 「ケホッ。ゲホッ!」 ルイズがむせる。大丈夫、無事な証拠だ。それよりも。 キュルケは大丈夫だろうか? タバサは床にかがみこみ、寝たままのキュルケを眺めた。 どうやら今の崩落では、キュルケは怪我を負ってはいないらしい。 だが、傷が癒えたのに未だ意識が回復しないのが気にかかる…… タバサが思ったとき、何かが土煙の向こう側で光った気がした。 「何――?」 そうつぶやいたのと、理解したのはほぼ同時であった。 ナイフだッ! それもたくさんの! 空間を埋め尽くさんと空中に並べられたナイフは、ほぼ同時刻に投げられたように、三人を包み込むように配置されている。 まずい! あの量は! 私の風魔法では防ぎ切れない! フライでよける? いや、キュルケを見捨てるわけには行かない! タバサはルイズとキュルケを押し倒すようにして、ナイフに背を向けた。 ドスッ! ドスッ!!! とっさに風の障壁を展開したもの、いくらかが確実にタバサの背に突き刺さる。 「ッ!!!」 電撃を受けたような痛みがタバサを襲う。意識が飛びそうになるのを、かろうじて押さえつける。 「タバサ、しっかり!」 ルイズが近づいてくるが、はいつくばった格好のタバサには、それに応える心理的肉体的余裕がない。 パン、パン、パン…… 緊迫した空気の中、乾いた拍手の音が聞こえる。闇の中から聞こえ出すその音。 タバサとルイズは同時にその方角に振り向いた。 「さすがだ。この危機的状況においても仲間を見捨てないとは。さすはシャルル兄さんの子だ。この俺の相手をするにはそのくらい正義感ぶっていなければな」 「ジョゼフ王……」 「しかし、少しやりすぎたかも知れんな。これでは私が楽しむ前に殺してしまうかもしれん」 ほくそ笑むジョゼフ。 タバサは杖をジョゼフに向けた。ついにこの時がきたのだ。決着をつけるときが。 「王よ、あなたに決闘を申し込む」 「まって! この場はいったん退くわよ!」 ルイズがとんでもないことを言い出した。いったい何故? 「ここは明らかに私達に不利よ。私達の周りにだけ瓦礫が散乱しているし、なによりも私達はあのナイフ攻撃の正体をつかんでいない。ここで戦っても敗北するだけだわ!」 なるほど、確かに言われてみればそのとおりかもしれない。しかし、 「キュルケ、目を覚まして。いったん退く」 肝心のキュルケが目を覚まさない。 「早く、タバサ! キュルケはもう……」 「茶番劇をしている場合か、御二方?」 ジョゼフのせりふが二人を貫き通す。 その言葉と同時に、ジョゼフは懐から銃を取り出した。 「あなた、メイジの癖にそんなものを!」 「そうだ、俺は無能王。この俺にまともな四大系統魔法は何一つ使えやしない。だから、こういうものまで準備したのだ。なに、こうまで近いと素人でも外しやしまい」 ジョゼフは一歩一歩、死刑宣告のように不気味に二人に近づいてくる。 「立ってタバサ! 距離をとって!」 ルイズがタバサを無理やりに立たせる。 タバサはレビテーションの魔法で、倒れたキュルケを引っ張りあげる。 そうしておいてルイズとともに走り出したが、浮かんだキュルケがどうしても遅れていく。 「そう簡単にうまくいくかな?」 ジョゼフは弾丸を発射した。 それは高速でタバサの方角へととび込んできた。 この距離。大丈夫だ。 仰向けにのけぞった瞬間、額を高速の弾丸が掠め飛ぶ。 かわせた! そう思った瞬間、弾丸は鋭い弧を描いて引き返してきたのだった。 とっさに風の魔法で防ぐタバサ。そうしなければ反転してきた弾丸に命中していたであろう。 結果としてキュルケを床に叩き付けてしまった。 しかしそのことを後悔する暇などない。 「タバサ! この部屋に!」 タバサはルイズとともに、最寄のドアを開け、広めの部屋に入り込んだ。 全力で通過してきた扉を閉め、手近にある家具でつっかえを施す。 「この扉の障害がいつまで持つかわからないけど、一旦はジョゼフと距離をおくことができるわ」 「でもキュルケがを置いてきてしまった」 「タバサ、いいにくいけど、キュルケはもう……」 「気にしないで、ルイズ。私はもう気持ちを切り替えている。ただ、あの王の元にキュルケを置いてきてしまった自分が許せないだけ」 タバサはそうルイズに答えた。だが、それは半分正解であり、半分欺瞞でもあった。 キュルケ。ごめんなさい。私と関わり合いにならなければ、こんなところで死ななかったはずなのに…… 「タバサ。ごめんなさい。でも、今はキュルケのことを考えて落ち込んだり後悔している暇はないはずよ」 ルイズの言葉は痛かった。痛かったが、まごうことなき正論であった。 「うん。わかっている。今はジョゼフを打倒することを考えるべき」 タバサの見るところ、ジョゼフが今まで行ってきた数々の挙動。それは明らかに四大系統魔法の範疇を超えた領分のものであった。 で、あるならば。 「スタンドか、虚無の魔法。おそらく両方」とタバサは断定した。 「それって、ジョゼフが私と同じ虚無の使い手かもって事?」 「うん。ジョゼフの突然の出現。ナイフ攻撃。天井の崩落。銃弾の操作。スタンドでは能力が多彩すぎるし、虚無の魔法もしかり」 「そうね。あの天井の崩落。アレは『エクスプロージョン』の魔法だということが考えられるかも」ルイズは考え込むようにして座り込んだ。 「突然の出現とナイフ攻撃は、おそらく同質の能力」タバサは言った。虚無の魔法で、ルイズに思い当たる魔法はないだろうか? 「う~ん。ちょっとわからないわね。出現のほうは、アイツが出てくるまで誰も気づかなかったわけだし」ナイフも、突き刺さる直前までそこに無いかのようだった。 と、そこまで考えたところで、タバサは辺りのあまりの静寂さに気がついた。 ジョゼフが扉の向こうで何かしているとしたら、あまりに静か過ぎる。 と、そのとき。ルイズが急に口元を押さえ、立ち上がった。何か喉を押さえるような動作をしている。 「うごぉぉぉおお……」ルイズが声にならない声を発したと同時に、真っ赤な吐瀉物を大量にぶちまけた。 よく見ると、中にはなぜか大量の釘が入っている! ルイズは口を大きくパクパクと開け、何とか息をしようとしていた。ヒューヒューという呼吸音が漏れる。おそらくあの喉や口の傷では呪文は唱えられないだろう! ルイズは大丈夫? それよりも、彼女はどんな攻撃を受けたの? そうおもったタバサの耳元に、ジョゼフの吐息が発せられた。 「決闘というからにはフェアにいこうじゃぁないか。一対一だ。シャルルの娘よ」 はっとして振り返った先には、すでにジョゼフの姿は無く。 「お前らの察しのとおり、これは、俺が唱えた虚無の魔法の結果だ」 ジョゼフはルイズの足元に立っていた。次の瞬間、 「『加速』の魔法という。そこなルイズとやらはそこまで到達していないらしいな」 ジョゼフはタバサをはさんで反対側の位置に移動していた。 「ちなみに、銃弾を操作したのは別なスタンドだ」 タバサには、王がどう見ても瞬間移動した様にしか見えない。しかし、「加速」という名前からして、実際に移動はしているらしい、とタバサはあたりをつけた。 「そして、そこに無様に転がっている女を攻撃したものが、今装備しているスタンド能力『メタリカ』の力だ」 スタンド能力も、おそらくジョゼフはルイズに触れていないであろう。ならば、今のスタンドも範囲攻撃型の可能性が非常に高い。ならば! 「さて、ここまで死刑宣告にまで等しい俺の能力の告白を聞いてもなお、決闘をする勇気はあるか? いや、この場合は蛮勇か」 ジョゼフはそう言い放った。だが、おそらくジョゼフはタバサが決闘を嫌がったところで、彼女と無理にでも殺し合いを始めるであろう。 タバサは一呼吸おいて、 「決闘に応じる」と応えた。 「ほう」ジョゼフは薄暗く目を輝かせる。 「それはうれしいが、何か策でもあるのか? お前の能力、トライアングルの魔法程度では、今の俺を殺しきることなど不可能に近い」 「策は無いといえば、無い。が、あるといえば、ある」 タバサは自分の杖と、ついでに持っていたイザベラの杖をジョゼフに向け、 「あなたに氷の魔法を放っても、加速の魔法でよけられる。なら、移動範囲すべてを、同時に攻撃してしまえばいい」全魔法力を込め、呪文を唱え始めた。 呪文を唱え続けているタバサの意識の中に、どこからともなく別の意識が流れ込んでくる。すでに、彼女はその意識の持ち主を直感的に理解していた。 その意識はタバサだけに優しく語り掛ける。 ――わかるね、ガーゴイル。いや、エレーヌ。アタシは一度しか手助けできないよ。 「うん。わかってる」 タバサはうなずき、杖を振った。 唱えたものは、本来一人ではできないはずのスペル。 強力な王家が二人以上そろって初めて発動できるはずのヘクサゴンスペルだった。 水の四乗に風の二乗。 この場に、すべてを凍らす絶対零度の奔流が出現する。 その名も、 『ウインディ・アイシクル・ジェントリー・ウィープス(雪風は静かに泣く)』 タバサの周囲の空気が壁となって凍る。さながら卵の殻のように。 「これは、やりおる」 そういうジョゼフの唇が、全身が、見る見る凍傷で黒く、青ざめていった。 「これは、私だけの魔法じゃない……イザベラの分も、キュルケの分もあるッ……」 「確かに一人でできる類の魔法ではない。だからなんだというのだ?」 「もはや、あなたには杖を振り下ろせるだけの腕力はないと見たッ……もう、あなたは魔法を使えないッ!」 「そのとおりだ。何もかにも凍り付いてしまった。だが、その魔法には欠点がある」 ジョゼフは勝ち誇った風にいい放った。 「お前の魔法が放つ絶対零度の寒波は、お前ら自身の杖から発せられている! その分だけ、私よりもお前の凍傷がひどくなるッ! 凍傷で先に死ぬのはお前だッ!」 「くっ……」 「お前が寒さで死ねば、この魔法は解除される。俺はそのときまで待って、体力を温存しておけば良いのだぁ!!!」 「少しでも、あなたに近づいて……」 「おおっと危ない」ジョゼフは楽しそうに後ずさった。 「まあ、近づかれても、射程距離内に入れば、今の俺のスタンド『メタリカ』で反撃する手もあるがな。ここは一つ慎重に行こう。手負いの獣には近づかないに限る」 「ここまできて……」 タバサはついに片膝を突いた。もはや彼女自身に体力が残されていない。 こんなに近くにあのジョゼフがいるのに! ここまで追い詰めているのに! 「ふん、ひやひやさせられたが、最終的には俺の勝利だったな」 そのとき、急にタバサの周囲に炎のカーテンが出現した。 「違うわ」 その声にはっとして振り返ったタバサは、笑いとも泣き顔ともつかぬ顔をし、 「あなたはッ……」 「いい? こういう場合、敵を討つ場合というのは。いまからいうようなセリフを言うのよ」 「貴様は?!」 「我が名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。わが友イザベラの無念のために、ここにいるタバサの父親の魂の安らぎのために、微力ながらこの決闘に助太刀いたしますわ」 キュルケが一歩一歩近づきながら、ファイアー・ボールの魔法をタバサの周囲に当てる。 「貴様らなんぞに負ける要素はなかったはず……」 「いい、私たちはチームで戦うのよ。その意味が、ジョゼフ王、あなたにわかって?」 「そ、のようだな」そういっている間に、ジョゼフの体温はどんどん低下していく。 「これで、チェック・メイトよ、王様」 「……そうか、まあ、いい。だが、何の感情も感じることはできなかった……残念だ……」 その言葉とともに、ジョゼフは氷柱の住人となった。 「あの爆発音はッ!」 「ああ、間違いない、ルイズたちが戦っている音だ!」 ブチャラティたちは急いでいた。彼らが捜索していた東の館に目標は無く、反対側の西のほうから何かの崩壊音が聞こえたからだ。霧が消えた今、ルイズたちに何かの異変が起こっていることは確実と見られた。 二人は二階に設けられた、半ば外に開け放たれたつくりの廊下を中央方面に向かって走る。だが、彼らの行く手をさえぎるように、前方に堂々と身をさらしている男がいた。 「お前は、ボスの精神の片割れ……」 「ドッピオ……」 桃色の髪の毛の男は、確かにドッピオであった。 ドッピオは右手を上げ、二人を制止する。 「おや、王様を殺したのはあなた達ではなかったのですか。ルイズさん達は大金星といえるでしょうね」 「何を言っている?」ブチャラティの問いかけに、ドッピオは己の額を指差した。 「ほらここ、何の痕も無いでしょう? ここには、かつて王様との契約の印が刻まれていたのですよ。だが、今となっては跡形も無い」 ドッピオはそういうと、彼が着ていた上着を脱ぎ始めた。 「だから、もはやジョゼフの契約の呪縛はもう、無い」 上着を脱ぎ捨てたとき、ドッピオはすでに無く、代わりにあの男、ディアボロが佇んでいたのだった。 構える二人。 「とはいえ、お前達には感謝しなくてはいけないな」 「何だと?」 「お前たちが、この世界での私の呪縛を解除したのだ。あの忌々しいジョゼフにかけられた精神を蝕む契約を。だから今までこのディアボロは表に出てこれなかったのだ。この俺、ディアボロを解放したのはお前達だッ!」 ディアボロは持っていた上着を投げ捨て、二人に向かって歩み始めた。 「ブチャラティ……俺はお前を再度殺すことで……未熟だった自分を……ローマであの新入りに殺された自分自身を乗り越えるッ!」 「……ボス……俺たちギャングは殺すなんて言葉はつかわない。すでに殺してしまっているからな……」ブチャラティが冷静に答える。彼の口調は深海の海水のように冷え切っていた。 「ブチャラティ。お前には……あのクソ忌々しい大迷宮を乗り越えて取り戻した……俺の本来の能力で『始末』する……」 「くるぞッ! 気をつけろ露伴!」 そういったブチャラティだが、その実、対策などは何も発案できていない。 「お前らにはっ! 死んだ瞬間を気付く暇も与えんッ!」 『キング・クリムゾン』!! 「我以外のすべての時間は消し飛ぶッ――!」 その瞬間、世界が暗転していった――。 ディアボロ、ブチャラティ、露伴――以外のものがすべて暗黒に覆われていく――キング・クリムゾンが時間を飛ばしている時、はっきりとした意識を持って行動できるものはただ一人、ディアボロのみなのだ――その彼は血をはくように叫ぶ。「あの『新入りの能力』がないお前らに、このディアボロが、負けるはずはないッ!」――過去にただ一体、この能力を打ち破った例外がいたが、そのスタンドは、今この場所には存在しない!――「『見える』ぞッ!ブチャラティ!お前のスタンドの動きがッ!!」――ディアボロは自分がこの時空のすべてを支配していることを自覚しつつ、ディアボロはブチャラティ達に近づく――「なにをしようとしているのかッ!完全に『予測』できるぞッ!」――何も自覚することもなく、惰性のまま攻撃してくるステッキィ・フィンガーズの拳を『エピタフ』で回避し、自らの玉座に向かう皇帝のように、ゆっくりとブチャラティに向く――「このまま…時を吹っ飛ばしたまま『両者』とも殺す! 殺しつくす! ブチャラティ! それにロハンッ!」――ディアボロは勝利を確信しながらも慎重に、かつての裏切り者に向かって、キングクリムゾンの拳を振り上げた――「今度こそ、確実に止めを刺す!」――しかし次の瞬間、暗黒に覆われていたすべてのものが元に戻っていく…… ディアボロにとって、信じがたい現象であった。 「な、なぜだッ?! 俺の『キング・クリムゾン』が、世界の頂点であるはずの我が能力がッ!」 「『解除』されていくだとッ!?」自意識を取り戻したブチャラティにとっても意外であった。 先ほどまで暗黒に包まれていた地面が、建物が元の場所に立ち上がっていった。 暗闇に消え去ったはずの鳥が、再び空を飛翔している。 その空間の中で、露伴が口を開く。 「ブチャラティから聞いていた……お前は自分以外の時間を吹っ飛ばす事ができるそうじゃないか……」 「本当に恐ろしい能力だ。なんてったって、『過程』をすっ飛ばして『結果』のみ残すことができるんだからな……」 「しかし、だ。お前『だけ』が時を吹っ飛ばせるんだ……その能力を完璧に使いこなすには、時を吹っ飛ばした後の未来を『見て』予知しているはずなんだ……時をスッ飛ばしている時に、敵のとる行動が分かっていないと意味ないからな……」 ディアボロは混乱していた。この男はなにを言っているのだ? 「そう、お前は僕達の『未来の行動』を『見てる』はずなんだ……」 このときすでに、露伴は自分の鞄に手を突っ込んでいた。 「僕が『お前に原稿を見せている未来』もね……」 そして、露伴はディアボロの姿をしっかりと見つめ、 「途中の『過程』ををすっ飛ばして、お前が僕の『原稿を見た』という事実だけが残る……」 鞄から自分の原稿を取り出した。 「『ヘブンズ・ドアー』 これで完全発動だ」 ブチャラティはようやくすべてを理解した。 彼はディアボロよりも早く我に返り、次のとるべき行動を行い始めた。 「露伴、ありがとう。本当に君と知り合えて……仲間になれて……本当によかった」 「なんだッ!?何も見えん!」 「これでチェックメイトだ。ボス!」 ディアボロはこのとき、もう視力を失っていた。 もっとも、それがよかったのかもしれない。 なぜなら、絶望しなくて済むからだ。 既に、彼自身の頭に『スタンド能力が使えない』と書かれていたからだ。 「ステッキィ・フィンガーズ」! アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)!!!」 希望とは、もともとあるものだとも言えないし、ないものだとも言えない。 それは地上の道のようなものである。地上にはもともと道はない。 歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。 ~魯迅~ エピローグ 『使い魔は動かない』 街が春の日差しを浴びている。 ネアポリス。 道路工事のため、ただでさえ渋滞で名高いネアポリスの道路に車があふれている。 自動車のクラクションがせわしなくなり響く中、一台の車は郊外の高級住宅地へ向かっていた。 後部座席に座っている20代後半に見える男は、窓から外の様子をじれたように眺めていた。 「まだつかないのか? 相変わらずこの街の道路行政は最悪じゃぁねーか!」 「いつものことでしょう? それにわれわれが言えた口ではありませんよ」 運転手がため息をつきながら男の愚痴に応じる。 この道路工事には、『彼ら』の息のかかった業者が入札に成功していた。 その彼らが道路工事の遅延に不満を言うわけにはいかない。 結局、その道路工事のため、予定より二時間も遅れて、目的地の洋館に到着した。 車に乗っていたその男は、自分のボスの前で、日の光があたる場所を選んで椅子に座っていた。 近くのテーブルには食事が用意され、小人が六人、昼食のピッツァをむさぼっている。 「すまんな、ボス。もうシエスタの時間か……この時間まで何も食わせられなかったから、こいつら今日は仕事しねーな」 「それはいいんです、ミスタ。それより、用件とは? 君の好きな漫画家に関することだとか」 いらだった様子で、向こうの椅子に座った男が尋ねた。部屋の奥にいるため、そこには日光の明かりは届かない。 「そうだ、俺はその漫画家にファンレターを書いたんだ。で、なぜかそいつから俺宛に返事が届いたんだが……」 そう言いながら、ミスタと呼ばれた男は立ち上がり、膝に抱えていた、大きな茶色の封筒を差し出した。中身はかなり分厚い。おそらく、大きめの紙が四百枚以上入っているだろう。 「この手紙は、ボス……いや、ジョルノ。あんたも目を通すべきだ」 久しぶりに旧い呼び名で呼ばれた男は、その手紙の束を読み始めた。 男の表情が見る見るうちに真剣な表情に変わっていった。 その手紙は、このような出だしで始まっていた。 『はじめましてミスタ。君の事はブチャラティから聞いてよく知っている。今から書くことは君にとっては信じられないかもしれないが……』 二週間前。 岸辺露伴はこちら側、つまり地球に帰還していた。 「よし、『使い魔の契約』を解除したぞ」 露伴は己のスタンドで、ルイズの魔法の契約を書き換えた。 ルイズにとって、初の魔法の成果である、コントラクト・サーヴァントの効果を完全に否定したのだ。 「本当にいいのか? ルイズ?」 ブチャラティの、もう何度目になるかもわからない問いかけに、ルイズははっきりと答えた。 「ええ、いいのよ。もう私とって、使い魔は必要なものじゃないわ」 ルイズが露伴のスタンドの補助の元、サモン・サーヴァントの魔法を唱え始める。 彼女の口からは不安なく、力強く呪文が紡ぎ出される。その口調にためらいは無い。 長いが、落ち着いた口調で呪文を唱えた後、 「うまくいったわ」と、ルイズの目の前に等身大の光る鏡が現れた。 「この鏡は、私が新たに使い魔と契約しない限り、あなた達が通行しても閉まらないハズよ」 露伴は彼女に、杜王町につながるように設定していたのだ。 結論から言うと、タバサはあの世界では、母親を助けられなかった。 だが、解毒剤を手に入れられなかった露伴は、ここにいたってある可能性に気がついた。 自分の『天国の門』では、彼女の母の毒を取り除くことはできなかった。 しかし、自分の故郷に、あの町に、食べた者の病気を何でも治してしまう料理人がいたじゃあないか? 一週間後の杜王町。 コンビニ「オーソン」の前からはいる、不思議な横道。 ここは、かつて杉本鈴実と、愛犬の幽霊が住んでいた場所である。 そこに、岸辺露伴と東方丈助がいた。ついでに、広瀬康一と虹村億康もついてきている。 彼らを出迎えている露伴はすこぶる不機嫌だ。それもそのはず、彼の近くにいたのはこの三人だけではなかったからだ。 「いや~。露伴大先生にそんな趣味があったとは……全然気づかなかったッスよ~」 「ま、まあ、露伴先生にもいろいろと事情があったんだし……」 「か、かわいい……」 発言した順に、丈助、康一、億康である。これだけでも露伴を胃痛に追い込めるのに、 「変わった格好……」 「こら、シャルロットや。私の恩人のご友人に向かってそのような事を言うものではありませんわ」 「何で人に化けなきゃいけないの? 私悲しいのね! るーるーるるー」 タバサ、タバサの母、人に変身したシルフィードまでも終結していたのだ 「くそっ! 何でお前なんかに弱みを握られなくちゃならないんだッ! この岸辺露伴が!」 早くも口論をし始めた男二人に、背の小さな男女が止めに入る。 「ほらっ丈助君! もう悪乗りは止めようよ。またうらまれちゃうよ~」 「おちついて」 その間、 一呼吸。 二呼吸。 おまけに三呼吸。 「あなた」 「ブッ!」 「ザ・ハンド!!!」 ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! 一人の少年が、涙を垂れ流しながら、自力で月まで吹っ飛ぼうとしていた。 どうやら彼には、露伴の『そーいう冗談は死んでもよせ!』というセリフは耳に入らなかったようだ。 「まって!私も飛ぶの~」 星になった少年とひとりの少女はほったらかしておいて、路上での話し合いは続く。 「と、とにかくですね。問題は解決してないんですから」 「ああ。どうしようか、これ」 「オレのクレイジーダイヤモンドでも直せないってのはグレートッスよ~」 「つまり」 「ああ、どうやってもこの『鏡』は閉じない。ということだな」 皆のため息が漏れたことは言うまでもない。 「ブチャラティ! 本当に還るんですか?」 また、そこにはジョルノがいた。ミスタもいる。 「そんなこといわずに、一緒にネアポリスへ帰ろうぜ!」 だが、ブチャラティは、ミスタの言葉にかぶりを振った。 「無理だ。見ろ、この世界じゃ俺の姿は透けて見えるじゃないか。この世界では、俺はすでに死んだ存在なんだよ。ああ、ジョルノには前にも言ったと思うが、俺は元いた場所に戻るだけなんだ」 「そんな……」 「こーいう場合でも、生き返ったといっていいのか? 第二の生活にはとても満足している。だがな、ジョルノ。ミスタ。俺は還らなければならないんだ。それが正しい道しるべに沿った、俺の進むべき道なんだよ」 そういいながら、ブチャラティは静かに、安らかに天に昇っていったのだった…… ルイズ → 使い魔を失った事以外は特に変化なし。だが、いつもの学園生活は、ルイズの自信に満ち溢れた日常に変わっていた。 キュルケ → 死に掛けたことが親にばれ、危うくゲルマニアの実家に戻されそうになる。が、どうにかごまかすことに成功。お腹の傷跡を気にした風も無く、今日も彼氏作りにいそしむ。 タバサ → なぜか岸辺の字と自分の本名を日本語で勉強し始めた。 タバサ母 → いきなりガリアの女王になるも、しょっちゅう王宮を抜け出し、タバサと趣味の旅行に出かける日々。座右の銘は「わたしのシャルロットちゃん、ガンバ!」 ギーシュ → 死にそう。(借金的な意味と、モンモランシーに振られそうな意味で) シエスタ → 観光だと露伴に連れられていった杜王町で、億泰に一目ぼれされた挙句、突然告白され困惑。 岸辺露伴 → ハルケギニア滞在中にたまりにたまっていた、原稿の仕事を超人的な速度でこなす。それがひと段落ついたとき、とある田舎で妖怪のうわさを耳にする。
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四人は目の前の出来事に我が目を疑った。 そこでは世にもおぞましい光景が広がっていた。ゴロリンと横に転がっている生首の切断面から、植物の蔓のような、しかし人間の肉を連想させる生々しい触手が、無数に生えてきたのだ。 それに伴う"ビュルビュル"という嫌な音も相まって、四人は嫌悪感も露わに身構えた。 何もかもが未確認な生物なのでソレが次に起こす行動が予測出来なかった。 ---ドスドスドスッと触手の何本かが地面に突き刺さり、それを支えにした生首が宙に浮かび、四人を見下ろす形となった。 「GRRRRRR……」 低い唸り声に四人の産毛が逆立った。 どう考えてもこちらと友好的な関係を築くつもりはなさそうだ。 そもそも理性があるのだろうか。 --考えている暇はなかった。 目の前の生首が、こちらに向かってすさまじい速度で無数の触手を伸ばしてきたからだ。 予想以上の触手の多さに、キュルケは内心舌打ちをした。 ---さっきよりも増えてるんじゃない…? 苛立ちながら炎の魔法で応戦する。 しかし… (~~~~ッ!!的が小さすぎる!) 真正面から向かってくる無数の触手は、対象から見れば点にしか見えない。 狙いが絞れないのだ。 そのうえ、うまく狙いをつけても、触手はヒョイヒョイとそれをかわしてしまう。 驚異的な反射神経だった。 ならばと、キュルケは後退しながら生首に向かって火+火のフレイムボールを放った。 完璧に捉えたそれはしかし、触手が身代わりになることによって防がれてしまった。 どうやら、あの生首が本体のようだ。 そう判断したキュルケは後ろの二人に呼びかける。 「二人とも!あの生首よ!」 それだけでキュルケの意図を汲み取ったタバサとコルベールは、魔法を生首めがけて掃射した。 後のことは二の次にした、全力攻撃だった。 しかしタバサとコルベールの魔法は、先ほどキュルケが焼き払ったと思われた触手に悉く払われ、防がれ、無力化されてしまった。 呆然とする二人。 一瞬攻撃の手を緩めてしまった。 それがまずかった。 『KUOOOOOOO!』 次の瞬間、コルベールが地に伏した。 左足から夥しい出血をしつつ、コルベールはドサリと倒れた。 タバサは呆然とそれを見る。 --何も見えなかった……。 ただ、あの生首の目がギラリと光ったように見えただけだった。 ふとみると、コルベールの足下の近くの地面に、ピンボールほどの大きさの円形の穴が開いていた。 それと同じ傷が、コルベールの左足にも刻まれているのだろう。 恐らくは何か銃弾のようなものを発射したのだ。あの目が。 そうとしか考えられなかった。 全く常識の範囲外だった。 すでにこの状況そのものが非常識の極みだが。 ---もういちどさっきのをやられたら……… タバサは戦況の不利を悟りし、一旦退却すべきだと決断した。 指笛を吹き、自分の使い魔である風竜のシルフィードを呼び出す。 その間にコルベールを引きずって出来るだけその場を離れるとともに、前でルイズとともに触手の相手をしているキュルケに呼びかける。 「ミスタ・コルベールがやられた。一旦退く。キュルケも早く」 「えぇ!?……わかったわ。ルイズ、聞こえたわね!」 ルイズは何もいわず、ただ頷いた。 5へ 戻る 7へ
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「ハハハハハッ!いつまでもつのかな?」 左右から人形が迫る 「くっ」 エピタフで予知していたので一体を右腕で殴り破壊。二体目の攻撃を回避 「エピタフ!」 次の予知、その予知は 「後ろ三体!」 右腕のチョップで一気に三体倒す。だがこのままだと 「・・・消耗戦になってしまう・・エピタフ!」 事実、本体であるギーシュに詰め寄れない。詰め寄ろうとしても何体もの人形が邪魔をするのだ 「右二体前一体・・ここ!」 左後ろに下がり瞬時に 「エピタフ!」 未来予知を使う。その結果 「・・・囲まれた?!」 「こうも簡単にその敷地に来るとはね。今まで君を相手にしていたワルキューレたちは陽動さ」 「まずい・・・!」 周囲の土から現れた人形、数にして八体 ドッピオは右腕を使い回転して周囲の八体を薙ぎ払う様に倒す 「エピタフ!」 次の予知を行うが 「・・くっ」 さっき倒さずにいた三体の人形の攻撃、前、右、左 ドッピオは右腕を地面に打ち後方に下がろうとするも ドガッ! 「ぐっ・・・?!」 後ろの何か・・・いや、青銅の鎧人形にぶつかってしまった 「言っただろう?今まで君を相手にしていたワルキューレたちは陽動と その三体は今までのワルキューレじゃないかな?」 「しまっ・・」 ドゴォッ! しまったと言い切る前に殴り飛ばされる それは計算されたのかギーシュ手前の二、三メートルまで飛ばされた 「・・・ゲホッ」 「ここでさっきの愚行を改める・・・土下座して謝るって言うならもう終わらせてもいいけど」 「・・・れが」 「・・・よく聞こえなかったなーもう一度言ってくれないかな?」 「・・だれが貴方なんかに謝りますか・・・!」 ドッピオは少しギーシュに対して不満を持っていました。二股もさることながらルイズを小ばかにした態度が気に入らなかったのです 「ふーん、じゃあその考えを改めるまで・・・」 ドッピオに杖を突きつけギーシュは 「僕のワルキューレたちのサンドバックになるがいいさ!」 ドッピオは瞬時にエピタフを使い対応しようとしますが 「やめて!!」 その声にさえぎられたのです 午前の授業を終えたルイズは一度部屋に戻りました ドッピオに昼ごはんを与えるためドッピオを探していたのです ですが 「部屋にもいないなんて・・掃除は綺麗にやってるみたいね まったく主人をほったらかして何をやってるのかしら。あの使い魔は」 少々ルイズは怒っていました。自分の使い魔が自分にまったく干渉しようとしないのですから 「本当にどこに行ったのかしら」 「お困りのようね。ゼロのルイズ」 と、急に自分のあだ名で呼ばれたルイズ。ルイズ自身は分かっている。この声の主が 「何の用かしら?ミス・ツェルプストー」 「いえ、貴女が一度使い魔に脱走されたなんて聞いたので 今回もまたそういうことになってるんじゃないかと思って」 「余計なお世話よ。大体実際に脱走はしていないし今回だって違うわ」 「そうかしら?あんないかにも体力より頭脳って感じの・・ドッピオだっけ? そんなのに掃除洗濯任せてたらいやになるのも当然よ」 「う・・・」 その事に関してはルイズも同意見でした。まだ上手くやっていますがいつ放り出してしまうか 少しルイズも不安でした 「だ、だからってここ以外に住めるところなんてこの辺には無いし 野生のクリフォンやドラゴンが出てくるのよ?無用心に出て行くなんて」 「それを貴女の使い魔は知っているのかしら?もしかしたら」 ルイズは少し冷静になり考えたら恐ろしいことが浮かびました 「・・・ドッピオが死んじゃうかもしれない?」 「そうなるかもしれないわね」 「だったら急いで探さないと!」 ルイズは自分の家名に泥がとか使い魔が脱走した上に見殺しで自分の評価が下がるとか言うのは考えませんでした 二日とは言えど自分の世話をしてくれた彼が見殺しになるのがなぜか嫌でした 「そう、じゃ頑張ってね」 「ちょっとアンタも手伝いなさいよ」 「嫌よ、何で人の使い魔の問題を抱えないといけないのよ」 「こうして話をしてロスした分の時間そのくらい手伝ってもらわないといけないわ」 「・・・ハア、仕方ないわね」 こうしてドッピオを探すために廊下を走り回るルイズとキュルケですが一人の生徒と会いました 「ゼロのルイズとミス・ツェルプストーではないですか。どうかしたんですか?」 少々ルイズはムッとしましたが今は気にしてられません 「丁度いいわ。コイツの使い魔がどこにいるか知らない?」 「ゼロのルイズのですか?そういえば今すごいことになってますよ 何でもギーシュと決闘をするだとか」 「何ですって?!」 「・・それはどこでやっているのかしら」 「確か中庭だったと思いますよ」 「急ぐわよ!ルイズ!」 「ええ!」 予想していたことより厄介なことになりました たとえドッピオが勝ったとしても貴族を侮辱した罪などで起訴されれば死刑になってしまう それにドッピオのような平民が貴族・・魔法を使えるものに敵うわけが無い そう思って中庭に来たルイズとキュルケでしたが 「嘘・・・」 「・・すごい」 予想していたようにはなっていませんでした ドッピオはギーシュ相手に戦えていました ギーシュのワルキューレがどこから来るのか分かっているかのように攻撃を回避し 自分たちに視えないなにかでワルキューレたちを倒していきます 「嘘・・・貴女の使い魔って平民よね」 「ええ・・魔法は使っていないはずよ。杖持ってないし」 魔法使いには必須の杖を持たずに不可視の何かでワルキューレを倒していくドッピオ 「・・・でも、もう終わりのようね」 「え?」 「ギーシュのほう、よく見なさい」 「・・まさか」 ギーシュは笑っていた 自分の魔法が平民であるはずのドッピオに敗れているはずなのに笑っていた 「ギーシュの奴、何か罠を張ってるわよ」 「あ?!」 突如ドッピオに現れる八体のワルキューレ、だがドッピオはそれを薙ぎ倒す 「積みね」 そこからさらに前進して来たワルキューレから離脱しようとして後ろのワルキューレにぶつかってしまった ドゴォッ! 「あ?!」 鈍い音が響きました。それを周りの人は笑いながらや見ていられないように見ています 「・・・ギーシュ、加減をしてないわね。骨までイったんじゃないかしら」 「そんな・・・!」 「ここでさっきの愚行を改める・・・土下座して謝るって言うならもう終わらせてもいいけど」 ギーシュの言葉でした。ルイズは (もうドッピオは戦わない。何が目的でやったか知らないけどこれだけひどい傷を負えば) そう考えていました。いや、だれもがそう考えていたでしょう 「・・だれが貴方なんかに謝りますか・・・!」 ですが、その考えはもろくも打ち破られました 周囲の人は静かでした。笑いや同情もなく、ただその場で立ち上がろうとするドッピオを見て・・見守っていました 「ふーん、じゃあその考えを改めるまで・・・」 ドッピオに杖を突きつけギーシュは 「僕のワルキューレたちのサンドバックになるがいいさ!」 と言いました。その一言で 「あ、ちょっとルイズ?!」 ルイズのスイッチが入りました 6へ
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タバサの杖 キュルケに支給された。 タバサの使用している杖。 作中の挿絵を見る限りタバサの身長より高く、才人の頭近くまであるので百六十センチ~百七十センチの間と考えられる。 外見は節くれだった古い木の棒で上のほうが丸く渦を巻いており、丸みを帯びる直前に青い二本のラインが走っている。 原作に登場している杖の中では最も長い。 原作ではメイジの杖は所有者専用である、との設定が外伝にあたる作品で書かれている。 しかし、本ロワ内では特に制限なく使用できるようである。